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2017年 1月新着情報 貨幣形態発生の証明について
● 『資本論』の論理学研究 序論
貨幣形態の発生の証明について
~ 価値形態と商品物神性の始元 ~
・・・・・・・・資本論第1篇商品と貨幣第1章商品第3節価値形態または交換価値
目 次
1. まえがき
2. 第1章 「証明」(論証)手続きについて
はじめに
3. 第1節「証明」の前提条件について
(1)証明の手順について
(2) 証明の前提条件について
4. 第2節 「胚芽の発展ルール(証明のルール)」について
はじめに
(1)萌芽(Keim:胚芽、胚細胞)について
(2)ヘーゲル論理学の発展ルール(H①、H②、H③)について
(3)萌芽・胚芽のヘーゲル発展を価値形態に適用
5. 第2章 価値形態の展開とドイツ語表記によるヘーゲル論理学の対比
はじめに
6. 概念の3つのモメント
Ⅰ. 第1形態 単純な、個別的な、または偶然的な価値形態
Ⅱ. 第2形態 総体的なまたは拡大せる価値形態
Ⅱ-2. 特別な等価形態
Ⅲ. 第3形態 一般的価値形態
Ⅳ. 第4形態 貨幣形態
7. 第3章 貨幣形態の発生の「証明」について
付属資料 1. 『資本論』第1章商品 第3節価値形態または交換価値 抄録・要約
2. ヘーゲル論理学『小論理学』第2部本質論、第3部概念論について (作業中)
貨幣形態の発生の証明について
まえがき
1. マルクスは、「いまだかつてブルジョア経済学によって試みられたことのない一事をなしとげようというのである。」
「この貨幣形態の発生を証明するということ、したがって、商品の価値関係に含まれている価値表現が、どうしてもっとも
単純なもっとも目立たぬ態容から、そのきらきらした貨幣形態に発展していったかを追求するということである。
これをもって、同時に貨幣の謎は消え失せる。」
そして、第3節価値形態の最後に
「貨幣形態という概念の困難は、一般的等価形態の、したがって、一般的価値形態なるものの、すなわち、第3形態の理解に
限られている。第3形態は、関係を逆にして第2形態に、すなわち、拡大された価値形態に解消する。
そしてその構成的要素konstituierendes Elementは第1形態である。すなわち、亜麻布20エレ=上衣1着 または
A商品x量=B商品y量 である。したがって、単純なる商品形態は貨幣形態の萌芽der Keim der Geldformである。」と、
締めくくっています。
すなわち第3節価値形態の課題の一つは、(A)価値形態の展開過程、(B)貨幣形態の発生、
(C)単純なる商品形態は貨幣形態の萌芽、以上3点の相互関連を証明(論証)することになります。
2. ここでの貨幣形態の「萌芽Keim:胚、胚芽」について、『資本論』の翻訳語ではすべて「萌芽」と訳されていますが、
二通りの解釈の可能性があります。
ドイツ語のKeimは通常、植物の胚、胚芽ですが、二番目に「萌芽、はじまり、そもそもの原因」などです。
胚(胚芽)について広辞苑など辞書では、「胚:多細胞生物で、受精後に発生を始めた卵細胞・幼生物。動物では母体内から
産み出される前か、または孵化以前で卵黄から養分を吸収している時期のもの、植物では種子中にある幼植物」とあります。
胚芽では、胚芽米などで日常的に知られています。
3. 「貨幣形態の発生Genesis」を証明すること
「発生Genesis」についても二通り考えられます。Genesisの語源は、ギリシャ語で「起源」の意味があります。
一般的にはギリシャ語旧約聖書の「創世記」のことです。第4節商品の物神的性格に通じる意味合いがあるものと思われます。
もう一つの「発生」のドイツ語は、「Entstehung」(一般的価値形態は、商品世界の共通の仕事としてのみ成立する〔entsteht:
発生する〕:Die allgemeine Wertform entsteht nur als gemeinsames Werk der Warenwelt.岩波文庫p.121)です。
ただし、「発生」の用語には注意が必要です。【発生】とは「①生い出ること。事が起り生ずること。「事件が発生する」。この他に、
「②生物の卵が成体に達するまでの、形態的・生理的・化学的な変化・発達、すなわち形態形成・分化・成長・変態・加齢などの
過程。発生は普通、受精によって開始される。系統発生との対比で個体発生ともいう。また、生物の器官がその原基から生じて
来る過程をいうこともある。(広辞苑)」。
用語として①と②の両方の意味合いがありますので、やはり文脈から慎重に判断することが求められるのです。
4. マルクスは、『資本論』第1版序文で次のように説明しています。
「何事も初めがむずかしい、という諺は、すべての科学にあてはまる。第1章、とくに商品の分析を含んでいる節の理解は、
したがって、最大の障害となるであろう。そこで価値実体と価値の大いさとの分析をより詳細に論ずるにあたっては、
私はこれをできるだけ通俗化する〔popularisieren:一般に理解しやすくする〕ことにした。
完成した態容を貨幣形態に見せている価値形態は、きわめて内容にとぼしく、単純である。ところが、人間精神は2000年以上も
昔からこれを解明しようと試みて失敗しているのに、他方では、これよりはるかに内容豊かな、そして複雑な諸形態の分析が、
少なくとも近似的には成功しているというわけである。なぜだろうか?でき上った生体を研究するのは、生体細胞を研究するより
やさしいからである。そのうえに、経済的諸形態の分析では、顕微鏡も化学的試薬を用いるわけにいかぬ。抽象力なるものが
この両者に代わらなければならぬ。
しかしながら、ブルジョア社会にとっては、労働生産物の商品形態または商品の価値形態は、経済の細胞形態である。
素養のない人にとっては、その分析はいたずらに小理屈をもてあそぶように見えるかもしれない。
事実上、このばあい問題のかかわるところは細密を極めている。しかし、ただ顕微鏡的な解剖で取扱われる問題が同様に
細密を極めるのと少しもちがったところはない。」
したがって、この序文からも推測される「Keim」は、第一に「胚」または「胚芽」と理解することのほうが自然です。
「胚芽:植物の胚で、種子の内部がやがて生長して芽(未発達の枝のこと)となり、個体を形成する部分」と定義できます。
一方で、「萌芽」の言葉自体にも「やがて成長して本質的な実体が出現するきざし」など、語彙の内容として含まれてはいます。
5. 私たちは、『資本論』の第1版序文―労働生産物の商品形態または商品の価値形態は、経済の細胞形態―を継承して、
「Keim」を一義的には「胚芽」と判断しています。そして「萌芽」と同じように「胚芽」は、「成長してゆく」観念をあわせもっています。
すなわち、「Keim:胚芽」の本質的な定義は、事物の発展してゆく「成長」概念として理解してゆきます。
ところでマルクスは、『資本論』第2版の後書きで次のように述べています。
「したがって私は、公然と、かの偉大なる思想家ヘーゲルの弟子であることを告白した。そして価値理論にかんする章の諸所で、
ヘーゲルに特有な表現法をとってみたりした。弁証法は、ヘーゲルの手で神秘化されはしたが、しかし、そのことは、けっして、
彼がその一般的な運動諸形態を、まず包括的で意識的な仕方で説明したのだということを妨げるものではない。」
そこで、マルクスにならって、ヘーゲルの用法も参照してみることにしましょう。
6. ヘーゲル論理学の有機的生命
さて、ヘーゲル論理学に特徴的な弁証法は、「発展 Entwicklung」の概念にあります。
『小論理学』161節補遺
「他者への移行は有〔第1部有論(存在)〕の領域における弁証法的過程であり、他者への反照は本質〔第2部本質論〕の領域に
おける弁証法的過程である。概念の運動は、これに反して、発展である。発展は、すでに潜在していたものを顕在させるに
すぎない。自然においては、概念の段階に相当するものは、有機的生命である。かくして例えば、植物は胚Keimから発展する。
胚はそのうちにすでに植物全体を含んでいる。・・・」
なお、『資本論』の「有機体生命の発展過程」については、「萌芽、胚芽、チョウ」(資本論テーマ別3月号)で、紹介していますので、
参照してください。
7. 『資本論』第1章第3節 4.単純な価値形態の総体
次に、『資本論』に登場する「Keim」を探索しますと、
「労働生産物は、どんな社会状態においても使用対象である。しかし、ただある歴史的に規定された発展段階のみが、
一つの使用物の生産に支出された労働を、そのものの「対象的」属性として、すなわち、その価値として表わすのであって、
この発展段階が、労働生産物を商品に転化するのである。したがって、このことから、商品の単純なる価値形態は、
同時に労働生産物の単純なる商品形態であり、したがってまた、商品形態の発展も価値形態の発展と一致するという結果になる。
一見すれば、すぐ単純な価値形態の不充分さがわかる。この形態は、一連の変態(Metamorphose)をへて、
やっと価格形態に成熟してくる萌芽(胚芽)形態 Keimform なのである。」(岩波文庫p.114)
以上の準備を終えて、「貨幣形態発生の証明」へと向かってゆきます。
第1章 「証明」(論証)の手続きについて
はじめに
「証明する内容」としては、以下の通りです。
「貨幣形態の発生を証明するということ、したがって、商品の価値関係に含まれている価値表現が、どうしてもっとも単純な
もっとも目立たぬ態容から、そのきらきらした貨幣形態に発展していったかを追求するということである」。
すなわち、証明すべき命題の端緒(始元)は、
「最も単純な価値関係(einfachste Wertverhältnis)は、明らかに、ある商品が、他のなんでもいいが、ただある一つの
自分とちがった種類の商品に相対する価値関係である。したがって、二つの商品の価値関係は、一つの商品にたいして
最も単純な価値表現(einfachste Wertausdruck)を与えている。」ことになります。
したがって、以下の手順で、第3節価値形態で展開されている命題の分析を進めてゆきます。
命題:
① 商品の価値関係(亜麻布20エレは1着の上衣に値すること)に含まれている価値表現にしたがって、
② 単純な態容―単純な商品形態(亜麻布20エレ=上衣1着)―から貨幣形態への発展を追求すること。
③ 貨幣形態(亜麻布20エレ=金2オンス)という概念の困難は、一般的等価形態と一般的価値形態の
第3形態(上衣1着、茶10ポンド・・・A商品x量、その他の商品量=亜麻布20エレ)を理解すること。
④ 第3形態は関係を逆にして第2形態(亜麻布20エレ=上衣1着など)に解消されること。
⑤ 第2形態の構成的要素 konstituierendes Element は、第1形態(亜麻布20エレ=上衣1着)であること。
⑥ 第1形態は単純な商品形態であり、
亜麻布20エレ=上衣1着 または A商品x量=B商品y量と表示されること。
⑦ したがって、単純なる商品形態(亜麻布20エレ=上衣1着)は、
貨幣形態(亜麻布20エレ=金2オンス)の萌芽(胚芽) Keim der Geldform である。
以上①から⑦をまとめ、「貨幣形態発生の証明」すべき内容は、
「商品の価値関係に含まれている価値表現(単純なる商品形態)として、その構成的要素konstituierendes Elementである
第1形態(亜麻布20エレ=上衣1着)は、第4形態である貨幣形態(亜麻布20エレ=金2オンスなど)の
構成的要素konstituierendes Element、すなわち胚芽Keimである」、ことの命題を証明することになります。
第1節 「証明」の前提条件
(1) 証明の手順について
まず、「証明」の決まり事について確認しておきましょう。
広辞苑によると、「証明」について以下のように説明しています。
① ある事柄が事実または真理であることを、理由や根拠に基づいて証拠立てること。
② ある物事または命題の真偽を定める根拠を示すこと。前提となる一群の命題から論理的手続きによって結論となる命題を
導き出すこと。論証。
さて、先ほど「まえがき」において、①から⑦の命題を掲げました。このうち「前提となる一群の命題」として、①と②を指定します。
次に「証明」の手順として、③第3形態から⑥第1形態の分析作業を行ないます。
そして最後に結論として⑦貨幣形態の萌芽・胚芽となる命題を導き出してゆくことになります。
ただし論証の進め方については、「第1形態は、第2形態の構成的要素konstituierendes Element」であることから、
順番は逆に⑥第1形態から始まり、⑤第1形態の発展である第2形態へ、④第2形態の発展である第3形態へ、そして
③第3形態から第4形態の貨幣形態への発展、となります。
すなわち、(A)価値形態の展開過程、(B)貨幣形態の発生、(C)単純なる商品形態は貨幣形態の萌芽・胚芽、以上3点の
相互関連 ― 有機的生命として構成的要素konstituierendes Elementの発展 ― を証明(論証)することになります。
特に証明過程で重要なことは、
(A)価値形態の展開過程、
A①最も単純な価値関係は、ある商品が、他のなんでもいいが、ただある一つの自分とちがった種類の商品に相対する
価値関係であり、
A②二つの商品の価値関係は、一つの商品にたいして最も単純な価値表現を与えている。したがって、
A③単純な価値表現であるA「単純な、個別的な、または偶然的な価値形態」は、第4形態の貨幣形態まで一連の
発展過程として継承されなければなりません。
これらの命題A①、A②、A③が、価値形態の端緒(始元)であり、
「貨幣形態の萌芽・胚芽」としてその後の展開過程―発生―が開始されることです。
*注:別紙のとおり、『資本論』第3節価値形態または交換価値のうち、第1形態の抄録・要約を作成しましたので、
随時参照してください。
なお、価値形態の展開過程と密接に関係が保たれているのが、ヘーゲル論理学です。
ヘーゲルでは、「個別は普遍である(das Einzelne ist das Allgemeine)」命題が、「概念のモメント(契機)」(『小論理学』163節、
166節)としてあります。「(1)普遍(Allgemeinheit)は、規定態のうちにありながらも自分自身との自由な相等性(Gleichheit:同等性)で
ある。(2)特殊(Besonderheit)は、そのうちで普遍が自分自身に等しい姿を保っている規定態である。(3)個・個別(Einzelnheit)は、
不変および特殊の規定態の自己反省である。」
植物の胚Keim(個物存在)が発展して、根、枝、葉等々に成長してゆく論理性が、価値形態の展開過程に取り入れられています。
(2) 証明の前提条件について
証明作業の開始にあたり、前提条件として重要な制限事項(あるいは定義)を確認します。
それは、「単純なる商品形態は貨幣形態の萌芽・胚芽である」発展ルールから逸脱しない、という制限です。
「萌芽(物事のはじまり)」から成長・発展してゆくという、一貫した初期設定の論理性が貫かれてゆくことが条件となります。
すなわち、この証明のルールは、「胚芽(有機的生命)の発展ルール」に従うということになります。
第2節 「胚芽の発展ルール(証明のルール)」について
はじめに
資本論ワールドでは、この1年間『資本論』に適用されたヘーゲル論理学の探索を重点テーマとしてきました。
ヘーゲル論理学では、「萌芽」(Keim:胚細胞)について以下のように規定していますので、
貨幣形態発生の証明にあたっても、ヘーゲル論理学の「発展ルール」確認作業を並行して行ってゆきます。
(1) 萌芽(Keim:胚芽、胚細胞)について
ヘーゲル『論理学』(大論理学第3篇理念第1章生命)
「この萌芽Keimの中には概念であるところのものが、すでに普通の知覚に見られ得るものとして出ているのであり、従って主観的概念
が外面的な現実性をもっているのである。というのは、生命体の萌芽は個体性の完全な凝集であって、その中には個体のいろいろの側面、
いろいろの特性、有機的な各区別がすべて、その全規定性において含まれており、まだ非物質的な、主観的な全体性が未発展のままに、
単純に、目に見えないような形で存在しているからである。その意味で萌芽は、概念の内的形式の中にある生命体全体〔感覚的にして
超感覚的事物〕である。」
(2) ヘーゲル論理学の発展ルール(H①、H②、H③)について
ヘーゲル『小論理学』(第3部概念論166節補遺)
・H① 「植物の胚Keimはすでに即自的に存在するにすぎず、それは胚が発展することによってはじめて定立されるのである。
これは植物の判断とみることができる。・・・したがって対象を把握するとは、その概念を意識することである。
われわれがさらに対象の評価に進むとき、対象にあれこれの述語を帰するのは、われわれの主観的行為ではなく、
われわれは対象を、その概念によって定立されている規定態において考察するのである。」
(161節)
・H② 「概念の進展は、もはや移行でもなければ、他者への反照でもなく、発展(Entwicklung)である。
なぜなら、概念においては、区別されているものが、そのまま同時に相互および全体と同一なものとして定立されており、
規定性は全体的な概念の自由な存在としてあるからである。」
(161節補遺)
・H③「他者への移行は有の領域における弁証法的過程であり、他者への反照は本質の領域における弁証法的過程である。
概念の運動は、これに反して、発展である。発展は、すでに潜在していたものを顕在させるにすぎない。自然においては、
概念の段階に相当するものは、有機的生命である。かくして例えば、植物は胚から発展する。胚はそのうちにすでに植物全体を
含んでいる。(といっても、それは観念的に含んでいるのであって、したがってその発展は、植物の諸部分である根や茎や
葉などが、非常に小さい形ではあるが実在的に、胚のうちに存在している、という風に解されてはならない。)」
(3) 萌芽・胚芽のヘーゲル発展ルールを価値形態に適用
マルクスは第3節価値形態の最後で、「単純な商品形態は貨幣形態の萌芽・胚芽である」と定義しています。
したがって、「胚芽の発展ルール」では「第1形態である単純な商品形態(単純な価値形態)」を上記のようにヘーゲル論理学の
発展ルール(H①、H②、H③)との整合性を確保しながら、有機的生命過程として検証を行ってゆきます。そして最終的に、
「貨幣形態の萌芽・胚芽」として、第1形態の論証、すなわち価値形態全体の端緒であることが証明されることになります。
第2章では、いよいよ価値形態の第1形態から第4形態・貨幣形態まで追跡してゆきます。
第2章 価値形態の展開とドイツ語表記によるヘーゲル論理学の対比
『資本論』「第3節価値形態」では、ヘーゲル論理学の「概念のモメント」が採用されていますので、第1形態から貨幣形態までの
展開にあたり、「概念のモメント」をより明確にするために、各価値形態の名称にヘーゲルと共通のドイツ語を併記してゆきます。
ヘーゲル『小論理学』の「概念そのものは、次の3つのモメントを含んでいる。」(163節)
(1)普遍(Allgemeinheit)―これは、その規定態のうちにありながらも自分自身との自由な相等性〔Gleichheit:同等性〕である。
(2)特殊(Besonderheit:特別)―これは、そのうちで普遍が曇りなく自分自身に等しい姿を保っている規定態である。
(3)個(Einzelnheit:個別)―これは、普遍および特殊〔特別〕の規定態の自己反省である。そしてこうした自己との否定的統一は、
即自かつ対自的に規定されたものであるとともに、同時に自己同一なものあるいは普遍的なものである。」
すなわち、各価値形態のドイツ語表記は以下の通りで、「個(Einzelnheit:個別)」、「特殊(Besonderheit:特別)」、
「普遍( Allgemeinheit:一般性)」が使用されていることが確認できます。
Ⅰ. 第1形態: A 単純な*(注1)、個別的な*(注2)、または偶然的な価値形態
A) Einfache, einzelne oder zufällige Wertform
*(注1):“単純なEinfache”は、証明すべき命題の冒頭にあるように「証明すべき命題の端緒(始元)」として、
「最も単純な価値関係(einfachste Wertverhältnis)は、明らかに、ある商品が、他のなんでもいいが、ただある一つの
自分とちがった種類の商品に相対する価値関係である。したがって、二つの商品の価値関係は、一つの商品にたいして最も
単純な価値表現(einfachste Wertausdruck)を与えている。」ことを継承していますので、「単純な関係」として、
「単純な・・・価値形態」となります。
*(注2):“個別的なeinzelne”は、個(Einzelnheit:個別)に該当し、「個は普遍である」ヘーゲル論理学の発展ルールによって、
次の第2形態へ発展してゆきます。したがって、“個別的なeinzelne”モメントは、“構成的要素konstituierendes Element”として
第2形態から貨幣形態まで継承されてゆきます。
第1形態である個別的な価値形態は、「亜麻布20エレ=上衣1着または=20着または=x着 となるかどうか、すなわち、
一定量の亜麻布が多くの上衣に値するか、少ない上衣に値するかどうかということ、いずれにしても、このようないろいろの割合に
あるということは、つねに、亜麻布と上衣とが価値の大いさとしては、同一単位の表現であり、同一性質の物であるということを
含んでいます。亜麻布=上衣 〔両極においてある共通物(数学上でのいわゆる“未知数”)が存在〕 ということは、
方程式の基礎 ( Grundlage:根拠、共通項が含まれていること) となります。
Ⅱ.第2形態: B 総体的*(注3) または拡大せる価値形態
B) Totale oder entfaltete Wertform
*(注3):“総体的Totale”は、ヘーゲル論理学では、「事物の有機的な動的・過程的性格を与えられた全体性」であり、
「有機的な発展または展開の過程」を本質論の相関関係として概念化する際に使用されるカテゴリーです。
『小論理学』121節、143節、147節、148節参照(Totalität:統体性、統体的とも翻訳されています)。
事柄や活動性のモメントとして統括的な役割を果たしています。
第2形態は、一商品ごとに価値表現を行なって、すべての他の商品は、ただ等価の形態で現われてきます。
そしてある労働生産物、例えば家畜がもはや例外的にではなく、すでに習慣的に各種の他の商品と交換されるようになると、
拡大された価値形態が、出現してきます。
Ⅱ-2. 特別な*(注4) 等価形態 2. Die besondre Äquivalentform
*(注4):“特別なbesondre”は、“特殊(Besonderheit:特別)”の個別形態にあたります。
第2形態では、第1形態の「等価形態」が発展してゆきます。
「上衣、茶、小麦、鉄等々の各種の商品体に含まれている特定の具体的な有用な多種多様の労働種は、それと同じ数だけ、
無差別の人間労働を、特別な実現形態または現象形態(besondre Verwirklichungs- oder Erscheinungsformen)で示す」ことなります。
すなわち、第1形態である亜麻布の価値表現は、上衣や茶など無数の等価形態を個別ごとに展開することにより、普遍的な、
無差別な人間労働を 「特別な(besondre:特殊な)等価形態」 において、実現することになります。
Ⅲ.第3形態: C 一般的*(注5)価値形態
C) Allgemeine Wertform
2.相対的価値形態と等価形態の発展関係*(注6)
2. Entwicklungsverhältnis von relativer Wertform und Äquivalentform )
*(注5):“一般的Allgemeine”は、ヘーゲル論理学では、「普遍Allgemeinheit」となります。また、
(注6):“発展関係Entwicklungsverhältnis”の「発展」は、「(2)ヘーゲル論理学の発展ルールH①、H②、H③」に該当します。
<3 一般的価値形態から貨幣形態への移行> ・・・以下の文脈では、2ヵ所で訳文の変更を行なっています。・・・
一般的〔allgemeine:普遍的〕等価形態は価値一般の形態〔Die allgemeine Äquivalentform ist eine Form des Werts überhaupt.:
普遍的等価形態は、一般に価値の一つの形態・形式〕であり、それは、どの商品にも与えられます。
他方において一商品〔亜麻布の例で〕は、それが他のすべての商品によって等価として除外されるために、そしてそのかぎりに
おいて、一般的な〔普遍的な〕等価形態(第3形態)が成立します。そして、この除外が、終局的にある特殊な商品種に限定される
瞬間から、初めて商品世界の統一的相対的価値形態が、客観的固定性と
一般的に社会的な通用性〔allgemein gesellschaftliche Gültigkeit:普遍的で社会的な妥当性〕とを得られることになります。
Ⅳ.第4形態: D 貨幣形態
D) Geldform
第3形態から第4形態の貨幣形態への移行については、一般的等価allgemeine Äquivalent(第3形態では亜麻布20エレ)が、
社会的習慣によって、終局的に商品金の特殊な自然形態と合生したことです。
すなわち金以外の他の商品が、金に対して直接的な交換可能性という社会的な形態を与えたことになります。
金が、商品世界の価値表現で、この地位(一般的等価形態allgemeine Äquivalentform)の独占を奪うことになってしまうと、
貨幣商品となります。この瞬間に第4形態は第3形態と区別され、一般的価値形態は貨幣形態に転化されます。
第3章 貨幣形態の発生の「証明」について
私たちは第2章においてヘーゲル論理学と対比しながら、第3節価値形態を分析してきました。
① 一般的〔allgemeine:普遍的〕等価形態は価値一般の形態〔Die allgemeine Äquivalentform ist eine Form des Werts überhaupt.:
普遍的等価形態は、一般に価値の一つの形態・形式〕であり、それは、どの商品にも与えられます。
② したがって、一商品〔亜麻布の例で〕は、それが他のすべての商品によって等価として除外されるために、
そしてそのかぎりにおいて、一般的な等価形態(第3形態:上衣1着、または茶10ポンド、またはA商品x量、または
その他の商品量=亜麻布20エレ)が成立します。
③ そして、この除外が、終局的にある特殊な商品種に限定される瞬間から、初めて商品世界の統一的相対的価値形態が、
客観的固定性と一般的に社会的な通用性〔allgemein gesellschaftliche Gültigkeit:普遍的で社会的な妥当性〕とを
得られることになります。
④ 特殊なる商品種は、等価形態がその自然形態と社会的に合生するに至って、貨幣商品となり、または貨幣として機能します。
商品世界内で一般的等価の役割を演ずることが、この商品の特殊的に社会的な機能となり、
したがって、その社会的独占となります。
⑤ この特別の地位を、第2形態で亜麻布の特別の等価としての役割(亜麻布20エレ=上衣1着または、金2オンスなど)を演じて、
また第3形態でその相対的価値を共通に亜麻布に表現する諸商品(上衣1着または、金2オンスなど=亜麻布20エレ)のうちで、
一定の商品が、歴史的に占有したのである。すなわち金である。
第4形態・貨幣形態:亜麻布20エレ、または上衣1着、または茶10ポンド、またはA商品x量=金2オンス。
⑥ このようにして、端緒の価値表現であり、構成要素konstituierendes Elementであった「第1形態:x量A商品=y量商品B
(亜麻布20エレ=上衣1着)」は、等価形態のy量商品Bに代わって金2オンスとなり、その価格形態(2オンスの金の鋳貨名)は、
例えば、亜麻布20エレ=2ポンド・スターリングとなります。
このようにして、価値形態の構成要素である第1形態が、第2形態、第3形態から第4形態の貨幣形態にいたるまで、
成長し「発展」してゆくことが確認されました。
そして、ヘーゲル論理学の3つのモメントを集約的に「金・貨幣形態」について総括を行なっています。
1. 金が他の商品にたいして貨幣としてのみ相対するのは、金がすでに以前に、それらにたいして商品として相対したからです。
すべての他の商品と同じように、金も、個々の交換行為において個別的の等価 einzelnes Äquivalent としてであれ、
他の商品等価と並んで特別の等価 besondres Äquivalent としてであれ、とにかく等価として機能しました。
しだいに金は、あるいは比較的狭い、あるいは比較的広い範囲で一般的等価 allgemeines Äquivalent として機能しました。
2. 金が商品世界の価値表現で、この地位の独占を奪うことになってしまうと、それは貨幣商品となったのです。
そして金がすでに貨幣商品となった瞬間に、やっと第4形態が第3形態と区別され、
一般的価値形態 allgemeine Wertform は貨幣形態 Geldform に転化されます。
最後にもう一度、ふり返ってみましょう。
マルクスによる「貨幣形態発生の証明」すべき命題は次のようでした。
「この貨幣形態の発生を証明するということ、したがって、商品の価値関係に含まれている価値表現が、どうしてもっとも単純な
もっとも目立たぬ態容から、そのきらきらした貨幣形態に発展していったかを追求するということである。」
「貨幣形態という概念の困難は、一般的等価形態の、したがって、一般的価値形態なるものの、すなわち、第3形態の理解に
限られている。第3形態は、関係を逆にして第2形態に、すなわち、拡大された価値形態に解消する。
そしてその構成的要素 konstituierendes Element は第1形態である。
すなわち、亜麻布20エレ=上衣1着 または A商品x量=B商品y量 である。
したがって、単純なる商品形態は貨幣形態の萌芽・胚芽 der Keim der Geldform である。」
以上で、証明を終わります。
なお、付属資料として以下の準備を行なっています。併せて参照をお願いします。
1. 『資本論』第1章商品 第3節価値形態または交換価値 抄録・要約
2. ヘーゲル論理学『小論理学』第2部本質論、第3部概念論について 抄録・要約