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 伊藤 誠著  『資本論を読む     講談社学術文庫 2006年発行

  
伊藤誠:理論経済学者(1936年-)
   
ベーム・バヴェルクのマルクス価値論批判と同じ論理で、資本論蒸留法の解釈を行っています。

 目次
 第1巻 資本の生産過程
  1 基本形態としての商品
  2 貨幣の謎を解く
  3 貨幣の働き
  4 資本の増やしかた
  5 ~8 以下省略
  9 資本蓄積と人口法則
 第2巻 資本の流通過程
 第3巻 資本主義的生産の過程


 第1巻 資本の生産過程
     
     一 基本形態としての商品
  1 資本主義の基本形態としての商品
  2 商品の使用価値
  
3 商品の価値  (p.34)
  
  「 『資本論』全体の基礎となる労働価値説がここで提示されている。すなわち、商品の交換価値は、
各商品の生産に要する抽象的人間労働の量によって規定される、という学説である。それは、リカードにおいて
頂点に達する古典派経済学の労働価値説を継承し深化するものであった。本書の「序」でもふれたように、
古典派経済学は労働価値説により諸商品の交換関係の決定原理を探りつつ、資本主義経済のしくみに考察を
深めていたが、資本主義経済を自然の秩序とみなしていたために、
財一般と商品の相違も、また労働生産物が
商品としてたがいに取り結ぶ社会関係の特質も理論的に明確にできなかった


そのため、労働による交換価値の量的決定関係にのみ考察の重点がおかれ、労働生産物一般とは異なる
商品に特有な社会関係の形態的特性についての分析が欠落していた。その問題点を是正するために、
『資本論』では、使川価値に対する価値の規定を、さらに価値の形態と実体とに二重化している。
すなわち、商品が他の商品との交換を求める属性は交換価値の姿において価値の形態を示すとともに、
その背後で
交換価値を規定する労働の量関係を価値の実体としており、その両者の区分と関連が
『資本論』の価値論の全展開を通じあきらかにされてゆくのである。

 ここでも、マルクスは交換価値としての価値の現象形態をまず取りあげて、
その背後に隠されている抽象的
人間労働の結晶としての価値の実体を探りだしている
。その過程でまた具体的有用労働と抽象的人間労働
からなる労働の二重性も区分してあきらかにしている。
とはいえ、
ここでの労働価値説の提示には、いくつかの理論的問題点が残されていた

 
第一に、商品の使用価値に担われた交換価値としての形態を、異なる諸商品のあいだの交換割合として
考察しはじめる際に、
諸商品の直接的交換が容易に実現されるかのように取り扱われすぎている
ある商品、たとえば小麦が鉄と交換を求めても、鉄の所有者は使用価値としての小麦を望まない公算も高い。
他の商品との交換を求める商品の価値性質は、特殊な使用価値を有する他の商品を等価として表現される
とともに、それぞれの使用価値の特殊性に制約されて、
直接交換を容易に実現できないことが商品の価値形態
の分析に際しては重視されなければならない


 次章では、マルクスがそのような価値形態の論理に立ちもどって、分析をすすめ、諸商品が相互に交換を
求める価値の形態が、貨幣を必然的に生みだし、貨幣に各商品が交換を求める価格形態を成立させる論理を
解明している箇所を読んでゆく。
そこでの論理とここでの交換価値の取りあげかたには整合しないところがある。
諸商品のあいだに直接的交換が容易に成立するかのように取り扱っている、ここでの交換価値の規定は
古典派経済学の取り扱いを踏襲しているであり、次章でみる価値形態論こそ、マルクスに特有な価値の
形態規定の真価を示すところと読める


 
第二に、ここでは、諸商品の交換価値から考察をはじめながら、ついで諸商品の使用価値を捨象して、
その背後の共通の特性として抽象的人問労働の結晶を価値の社会的実体と規定している

使用価値が捨象されるとともに、交換価値の形態も捨象されて、結果的に、価値の実体は労働生産物
一般の属性に還元されている
。労働生産物はつねに商品として扱われるとはかぎらないのであって、
抽象的人間労働の結晶としての性質も、商品の価値の形態的表現に対し、その基準を形成する社会的実体と
なっていることが理論的に確保されていないと、
価値の実体規定を示すところとはなりえない。
商品の二要因論の最後にこの問題が再考されることとなる。

 
第三に、単なる商品の規定に際してその価値の社会的実体としての抽象的人間労働の量関係を提示する場合
その労働がどのような生産関係のもとでおこなわれているのかを正確には示すことができない。資本主義社会に
先立つ諸社会では、
社会的労働の大部分は非商品経済的な共同体社会のもとでおこなわれ
その成果としての労働生産物の取得と配分も身分支配と結合されつつ、多くは現物経済でおこなわれていた。
したがって、部分的に商品化される生産物の価値の実体が、社会的な労働の量関係とどのように必然的に
関連しているかは、理論的に十分確定しがたいところがあった。そこで、ここではそれぞれ独立自営の
小商品生産者のみから成る社会が商品交換の背後に想定されているという解釈もおこなわれてきたが、
それは封建社会の解体過程で部分的に出現する独立小商品生産者が社会全体の生産体制をなしていたかの
ように読みとり、資本主義に先立ち無階級社会が商品関係によって組織されていたかのような、史実に反する
仮定をおくことになる。そこで、そのような無理を避けて、社会的労働の量関係が商品の価値の実体となる
必然性を論証するには、むしろ
資本主義的生産過程に即して、社会的な労働生産過程の総体が
商品の価値関係に包摂されて反復される論理に依拠するべきではないか、と考えられる
。」(p.34~36)

  ・・・以上で、 3 商品の価値 を終わります。