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<コラム.2>

 『資本論』のGallert/膠状物・凝結物Keim/萌芽  2016.12.06

  -人間労働のゲル化・Gallert と 胚・細胞・Keim



  私たちは、1817年~1858年ヘーゲルからウィルヒョウに至る生命科学史をたどってきました。
 ここから見えてきた西洋の生命観 ― 細胞
KeimとGallertの具体的な概念装置 ― を
 イメージすることが可能となり、 『資本論』に登場する「Gallert」を分析する準備ができました。
  最初に「
価値とGallertの関係」を要約しておきましょう。

 
  
はじめに

1.  価値としては、商品は人間労働の単なる凝結物〔blose Gallerten menschlicher Arbeit〕であるが、
 人間労働は、価値を形成するのではあるが、価値ではない。それは凝結した〔gerinnen : ゲル化した〕状態で、
 すなわち、対象的な形態で価値となる。

2.  この物体〔等価形態にある上衣〕にたいして、人は、それが価値であるという風に、したがって、亜麻布価値に対象化されている
 労働から少しも区別されない、労働の凝結物 〔 Gallerte von Arbeit〕である。

3.  一商品、例えば、亜麻布の価値は、いまでは商品世界の無数の他の成素〔Element〕に表現される。
 〔亜麻布20エレ=上衣1着または=茶10ポンドまたは=コーヒー40ポンドまたは=小麦1クォーターまたは=その他〕
 すべての他の商品体は亜麻布価値の反射鏡となる。こうしてこの
価値自身は、はじめて真実に
 
無差別な人間労働の凝結物〔als Gallerte unterschiedsloser menschlicher Arbeit〕として現われる

 こうして
Gallertは、商品世界の成素形態として「価値」を形成する。 そして、「単純なる商品形態〔亜麻布20エレ=上衣1着〕は、
  
貨幣形態の萌芽〔胚細胞der Keim der Geldform〕になるのである。
  
  さあ、ご一緒に出発しましょう。


  目 次
 
1. 第1章 第1節 商品の2要素                                              単なるGallert
 
2. 第1章 第2節 商品に表わされた労働の二重性                       単なる同種の労働膠状物Gallert
 3. 第1章 第3節 価値形態または交換価値 2. 相対的価値形態     
             人間労働の凝結物Gallert

 
4. 第1章 第3節 (A) 3 等価形態                             「価値鏡」としての労働凝結物Gallert
 
5. 第1章 第3節 (B) 総体的または拡大された価値形態 1.拡大された相対的価値形態
                     
           「反射鏡」としての亜麻布価値の無差別・人間労働の凝結物Gallert
 
6. 第1章 第3節 C 一般的価値形態 1.価値形態の変化した性格 
                                  
    社会的な蛹化として受肉した人間労働の凝結物Gallert
 
7. 第1章 第3節 D 貨幣形態                        単純なる商品形態は貨幣形態の萌芽・胚細胞 Keim
 8. 細胞組織とゲル状 (ヘーゲル『自然哲学』)    
               生物の胚 Keim と ゲル状 gallertartig 組織




   
 『資本論』のGallert・膠状物(凝結物)とゲル化 ・・・・「細胞組織とゲル状」(ヘーゲル『自然哲学』)

 
1). 第1章第1節 商品の2要素

 「われわれはいま労働生産物の残りをしらべて見よう。もはや、妖怪のような同一の対象性いがいに、すなわち、
 無差別な人間労働に、いいかえればその支出形態を考慮することのない、人間労働力支出の、
 
単なる膠状物〔eine blose Gallerte〕(*注1)というもの以外に、労働生産物から何物も残っていない。
 これらの物は、ただ、なおその生産に人間労働力が支出されており、人間労働が累積されているということを表わしている
 だけである。これらの物は、おたがいに共通な、この社会的実体の結晶として、価値―商品価値である。」
                  (*注1)
最初にGallertは「単なる膠状物」として始まるが、価値形態が展開されるにつれて、
                       貨幣の胚細胞へと成長分化してゆきます。お楽しみに。



 
2). 第1章 第2節 商品に表わされた労働の二重性

 「上衣や亜麻布という使用価値が、目的の定められた生産的な活動と布や撚糸との結合であるように、上衣や亜麻布という価値が、
 これと反対に、
単なる同種の労働膠状物〔blose gleichartige Arbeitsgallerten〕であるように、これらの価値に含まれている労働も、
 布や撚糸に対するその生産的な結びつきによるのではなく、ただ人間労働力の支出となっているのである。上衣や亜麻布という
 使用価値の形成要素は、裁縫であり、機織である。まさにそれらの質がちがっていることによってそうなるのである。
 それらの労働が上衣価値や亜麻布価値の実体であるのは、ただそれらの特殊な質から抽象され(*注2)、両者が同じ質、
 すなわち人間労働の性質をもっているかぎりにおいてである。」
                    (*注2)有用性、使用価値の「形成要素Bildungselement」が抽象されてくる。



3). 
 第3節 価値形また交換価値 A 単純な、個別的な、または偶然的な価値形態
   
    
2 相対的価値形態

 ① 「価値としては、商品は
人間労働の単なる凝結物〔blose Gallerten menschlicher Arbeit〕(*注3)であると、
  われわれがいうとすれば、われわれの分析は、これらの商品を価値抽象に整約するのではあるが、これらの商品に、
  その自然形態とちがった価値形態を与えるものではない。一商品の他のそれにたいする価値関係においては、
  ことはちがってくる。その価値性格は、この場合には、それ自身の他の商品にたいする関係によって現われてくる。」
                             (*注3)1.なぜかGallertが「凝結物」と翻訳・変更されている。
     
     1. この段階(注3)では、自然形態(有用性、使用価値の形成要素)の変換はまだ生じていない。

 ② 「だが、亜麻布の価値をなしている労働の特殊な性質を表現するだけでは、充分でない。流動状態にある人間労働力、
  すなわち人間労働は、価値を形成するのではあるが、価値ではない。それは凝結した〔gerinnen : ゲル化した〕状態(*注4)で、
  すなわち、
対象的な形態で価値となる人間労働の凝結物〔Gallerte〕として亜麻布価値を表現するためには、それは、
  亜麻布自身とは物的に相違しているが、同時に他の商品と共通に
亜麻布にも存する「対象性」として表現されなければならぬ。
  課題はすでに解決されている。
                 (*注4)1.「凝結した」のドイツ語原文はgerinnen:ゲル(ドイツ語Gel)化した(自然形態の状態変換)場合に
                        使用される。現代では一般的にゲル-ゾルのコロイド化学で使用される。
                       2. 自然形態は、ゲル化した対象的な形態に変換されることになる。
                       3. ゲルの例:ゼラチン(主にコラーゲンを主成分とするタンパク質のゲル。
                       4. ゲル化:液状のゾル状態から固体状態に変換すること。


 
4). 第3節 A  3 等価形態 

  「われわれはこういうことを知った、すなわち、商品A(亜麻布)が、その価値を異種の商品B(上衣)という使用価値に表現することに
  よって、Aなる商品は、Bなる商品自身にたいして独特な価値形態、すなわち
等価の形態を押しつけるということである。」
  「等価のつとめをしている商品の物体は、つねに抽象的に人間的な労働の体現〔具体化するverkorpern〕として働いており、しかも
  つねに一定の有用な具体的労働の生産物である。したがって、この具体的労働は、抽象的に人間的な労働の表現となる。・・・
  亜麻布の価値表現においては、・・・この物体〔等価形態にある上衣〕にたいして、人は、それが価値であるという風に、したがって、
  亜麻布価値に対象化されている労働から少しも
区別されない、労働の凝結物〔also Gallerte von Arbeit〕であるというように、
  みなしてしまうのである。このような
価値鏡を作る(*注5)ために、裁縫〔上着をつくる労働〕自身は、人間労働であるという
  その抽象的な属性以外には、何ものをも反映してはならない。」
                 (*注5)
商品の価値表現は、労働のGallertを映し出す「価値鏡(価値を映し出す概念装置)を作る」こと



  
5). 第3節 B 総体的または拡大せる価値形態
                1 拡大された相対的価値形態


  「一商品、例えば、亜麻布の価値は、いまでは
商品世界の無数の他の成素〔Element〕に表現される。すべての他の商品体は
  亜麻布価値の
反射鏡となる。
  こうしてこの価値自身は、はじめて
真実に無差別な人間労働の凝結物〔als Gallerte unterschiedsloser menschlicher Arbeit〕として
  現われる(*注6)。なぜかというに、価値を形成する労働は、いまや明瞭に、一切の他の人間労働がそれに等しいと置かれる
  労働として、表わされており、その労働がどんな自然形態をもっていようと、したがって、それが上衣に対象化せられようと、
  小麦や鉄または金等々に対象化せられようと、これを問わないからである。したがって、いまや亜麻布は、その価値形態によって、
  もはやただ一つの個々の他の商品種と社会関係にあるだけでなく、商品世界と社会関係に立っているのである。
   それは、商品としてこの世界の市民なのである。(*注7)」

                       (*注6) 1. 使用価値の「形成要素Bildungselement」が抽象されて、
                              「価値」は商品世界の無数の成素Elementに表現される。
                             2. 拡大された価値形態において真実に凝結物Gallertとして現われる。
                       (*注7) 
亜麻布商品は、Gallertとして商品世界の市民となるウィルヒョウを参照のこと




 
 6). C 一般的価値形態  1 価値形態の変化した性格

 「商品世界の一般的な相対的価値形態は、この世界から排除された等価商品である亜麻布に、一般的等価の性質をおしつける。
 亜麻布自身の自然形態は、この世界の共通な
価値態容〔Wertgestalt〕であり、したがって、亜麻布は他のすべての商品と直接に
 交換可能である。この物体形態は、一切の人間労働の眼に見える
化身〔sichtbare Inkarnation受肉〕として、
 一般的な
社会的な蛹化〔gesellschaftliche Verpuppung:サナギになること〕としてのはたらきをなす(*注8)。

 「労働生産物を、無差別な人間労働のたんなる凝結物〔blose Gallerten unterschiedsloser menschlicher Arbeit〕として表示する
 一般的価値形態は、
それ自身の組み立てによって、それが商品世界の社会的表現であるということを示すのである。
 このようにして、一般的価値形態は、この世界の内部で労働の一般的に人間的な性格が、その特殊的に社会的な性格を
 形成しているのを啓示する〔offenbart〕のである(*注8)。
    
          (*注8) 
Gallertは、人間労働の眼に見える化身・受肉の結果、商品世界の内部で、
                  ある社会的な性格を形成するのである。これを啓示する。→貨幣形態へ



  
7).  D 貨幣形態

  貨幣形態という概念の困難は、一般的等価形態の、したがって、一般的価値形態なるものの、
 すなわち、第三形態の理解に限られている。第三形態は、関係を逆にして第二形態に、すなわち、拡大された価値形態に解消する。
 そしてその
構成的要素konstituierendes Elementは第一形態である。すなわち、
 亜麻布20エレ=上衣1着またはA商品x量=B商品y量である。
 したがって、単純なる商品形態は貨幣形態の
萌芽〔胚・細胞〕der Keim der Geldformである。 (注9)



  
(注9) 「貨幣形態の萌芽」は、ヘーゲルの自然哲学 参照

  
ヘーゲル『自然哲学』 346節 細胞組織 Zellgewebe と ゲル状 gallertartig について

 「補論2 形態化の過程ではわれわれは直接的なものとしての生物の胚
(Keimから始める。
 しかしこの直接性は想定された直接性にすぎない。・・・胚の発達ははじめはたんなる成長であり、たんなる増殖である。
 胚はすでにもともと自体的には植物の全体である。胚は木等々の縮図である。・・・
  普遍的な結びつきを形成するのは、植物では細胞組織であり、これは動物的なものの中でと同様、小さな細胞
(Zelle)から成り立っている。
 細胞組織は、一般的な動物的および植物的な産物であり、― 線維質の契機である。・・・藻類はこれまでに植物とはまったく違っている。
 葉状体を、最も肉の厚いところで切断すれば、そこにきわめて明瞭な、けれどもいわば
ゲル状の糸〔gallertartige Faden〕が、
 多様で複雑な方向で認められる。幾つかの藻類の基礎は被膜のようなものであり、それは時には粘液状で、
 また時にはゲル状〔gallertartig〕だが、けっして水にとけてなくなったりはしない。キノコの組織は繊維質からなっていて、
 この繊維質はほとんど細胞とみなされている。・・・明白のことだが、新しい細胞組織は比較的古い細胞の間に生じる。細胞内の粒子は、
 植物の澱粉末であるといってよいだろう。(注)」(注:リンク「基礎理論」)『自然哲学』p.518

 
   ヘーゲル
『自然哲学』 341節 「植物的生命の始まりであるゲル状の粘液 gallertartiger Schleim 」 参照