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 『資本論』の科学史

   科学言語と命名法・化学方程式


 化学方程式とラヴォワジェの化学革命

  『資本論』英語版 エンゲルス序文



  『入門化学史』 T.H.ルヴィア著 朝倉書店 2007年発行
    
       化学命名法―科学言語の創作


 ラヴォワジエ〔アントワーヌ・ラヴォアジエ 1743-1794. (・1774年に体積と重量を精密にはかる定量実験を行い、化学反応の前後では質量が変化しないという質量保存の法則を発見) 「
ウィキペディア」参照)と彼の支持者たちが,化学における革命は必然であると考え始め,これを成し遂げようとしたとき,彼らは〔脱フロギストンの〕論理と証拠の力に頼らなければならなかった.彼らは,古いフロギストン説が誤っていること,そして酸素に基づく燃焼と酸性の説明を柱とする新しい説が正しいことを化学者たちに納得させる必要があった.これを行うために,彼らは新しい実験を行い,古い実験を解釈し直さなければならなかった.この革命を遂行する過程で,彼らは新しい革新的な装置を考案し,またこの新しい考え方に適合する化学言語を作り出した。



   ■ 言語:最も重要な革命の道具だて

  言語は,考えを伝える道具であり,それを受け入れるように他の人を説得するための道具である.それはまた,知識を系統立て,合理的な論理を形成して結論に達するための道具でもある.化学革命が成功した要因の一つは,その推進者たちが化学のだめの新しい言語を苦心七て作り出し,その言語を化学論争の通常の言語とすることができたことにあった.
  私たちは第5章で,脱フロギストン化空気が酸素になり,フロギストンの言いわけ的な役割の一部が,熱物質すなわち「熱素」という新しい概念に具体化されたことを見てきた.私たちはまた,ラヴォワジエが物質保存の法則をたいへん重要視したことを見てきた.それは一般に反応物と生成物のすべてを確認し,正確に測定することによって,質量保存の法則として取り扱われる.ラヴォワジエの実行したことのもう一つの本質的な部分は,化学反応とは化学成分の交換すなわち組み替えであること,そして物質の性質はその組成によって決定されるということの認識であった.革命におけるこれらすべての方面は,化学言語の根本的な再編を必要とした.したがって,
化学革命の最初の道具は,新しい化学命名法すなわち化学の新しい言語であった
  ラヴォワジエは言語の重要性,すなわち化学命名法とその命名法を支配する規則の重要性を明瞭に認識していた.彼は著書『化学原論』(1789)の序文を,化学の言語について述べることから始めた。

 ラヴォワジエの考えに影響を与えたもう一人,コンディヤックはどうだったであろうか? コンディヤックは,言語が推論や合理的な分析のための手段であり,発見を助ける道具であると書いていた.彼はニュートン物理学と天文学の言語である数学を掲げて,それが完璧な科学言語であると述べ,やや極端に代数学がその言語であるとみなした.
 一般に数学,特に
代数学には,その用語の関係を支配する明白な規則がある.代数方程式における数量は,移項することはできるが,消去することはできない.ラヴォワジエの用語においても,銅と硫酸,水銀と酸素などは同じように一つの組み合わせから別の組み合わせに移動することはできたが,しかし,その過程で消滅したり減少したりすることはない.化学方程式は(それは現代の形ではないけれども),コンディヤックが代数学について述べたことの中に見てとることができた.正しい言語を見出すことさえできれば,化学も数理物理学と同じくらい厳密な演鐸的科学になることができるだろうと考えられたのである.


 ラヴォワジエが彼の体系の正しさを証明するために,最も成功をおさめた装置は天秤であった.その装置は中央の刃先を支点として腕の両端に計量皿がつってある.化学物質は反応の間に新たに創造もされないし,消滅もしない.そしてこの真実は重さを持つどんな物質においても保たれていることを示すことができる.後で述べるように,ラヴォワジエが熱素すなわち熱物質が化学反応において単一物質として振る舞うことを示すためには,もう一つの装置を必要とした.まさに熱素が重さを持たなかったために,これが問題となった.

 ラヴォワジエが認めた
化学種とは,単一物質にせよ化合物にせよ一定の組成によって特徴づけられたものであった.一つの成分の別の成分に対する重量比は,すべての純粋な化合物において常に一定だった.たとえば異なる方法で採取した二酸化炭素の試料において,酸素の炭素に対する割合は常に同じであった.組成がー一定であることは,天秤を用いた分析によって確かめ,証明することができる.化学において天秤を使うことは目新しいことではなかった.多くの冶金術師,錬金術師,化学者,鉱物学者,薬剤師たちが天秤を使っていた.その中にはラヴォワジエが望んだように物質の組成を見出す精密測定のできるのものもいくつかあり,物質の本性を知るためにそれを使った者さえあった.ラヴォワジエの新しいところは,天秤を標準化の道具として使ったことである.最も重要な点は,どんな化学反応においても,反応物の重量が生成物の重量と等しいことを示すことであった.それが等しければ,何も見逃してはいないと確信を持つことができた.反応の前後で重量が異なるならば,それはさらに調べる必要があることを警告してくれる.重量減少があったならば,反応中に何かが失われたのである.不可解な重量増加があれば,何か他の物質が反応に入り込んだのであり,それが何かを確認する必要があった.ラヴォワジエは現在使用されているような化学反応式を書かなかったが,化学反応についての彼の考えは方程式の形と対応している.左辺と右辺は等しくなければならない.そして化学の場合には,単一物質と重量がそれぞれ等しくなければならなかった.



 
 化学方程式と質料保存の法則

 “化学反応の前後において、その反応に関与する元素の種類と数に変化はない。反応物の質料の合計と、生成物の質料の合計は等しいので、質料は保存される。
 また、化学方程式 chemical equation 参照。

 
 世界大百科事典 第2版の解説
 
化学反応において反応する物質と生成する物質との関係を,物質を表す化学式と等号を用いて表した式で,左辺に反応物,右辺に生成物を記す。たとえば,水素と酸素が反応して水ができる反応は, 2H2+O2=2H2O で表す。化学方程式は化学反応に関与する物質の種類を表すばかりではなく,質量保存の法則,気体反応の法則など物質間の量的関係も表す。そのため両辺の物質の質量が等しくなるように化学式の前に係数をつける(係数が1のときは省略する)。


 
■ 百科事典マイペディアの解説
 化学反応を,反応物質や生成物質を示す化学式と係数および等号を使って表した式。たとえば 2H2+O2=2H2O 。 反応の前後における物質の種類を表すだけではなく,質量保存の法則,気体反応の法則などによる物質の量的関係も満足するように表されている。さらに反応の際の熱の出入を付記したものを
熱化学方程式という。
 
現在では=のかわりに→を用い,化学反応式とよぶのが普通で,反応の向きを明示することが多い。