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資本論とiPS細胞

 iPS細胞とはなにか


1. iPS細胞 黒木登志夫
2. iPS細胞とは何か ブルーバックス
3. もっと知るiPS細胞 京都大学iPS細胞研究所HP

     ★資本論ワールド編集委員会より★
    
 マルクスは『資本論』序文の中で、以下のように「商品形態または価値形態は、
    経済の細胞形態である」と述べています。

   
「そのうえに経済的諸形態の分析では、顕微鏡も化学的試薬も用いるわけにはいかぬ。
    抽象力なるものがこの両者に代わらなければならぬ。
    しかしながら、ブルジョア社会にとっては、労働生産物の商品形態または
    商品の価値形態は、経済の細胞形態である。」(『資本論』第1版序文)


    私たちは、生命科学史文献において、18~19世紀・細胞理論の歴史を学なんできました。そして、現代の21世紀に「
iPS細胞」に到達することができました。
   生命現象として「細胞形態」が、私たちの体のすみずみまで「
成素形態」として機能していることを具体的に実感できる時代を迎えたのです。こうして古代ギリシャ哲学に始まり2000年の歳月を経て、ヨーロッパに伝統的な「生命の実体」として細胞理論に到達したのです。
   『資本論』の成素形態を念頭におきながら「iPS細胞」に触れていただければ幸いです。


 iPS細胞 不可能を可能にした細胞中公新書・黒木登志夫


  はじめに


 私がこの本で心がけたのは、生命科学としてのiPS細胞を正確に伝えると同時に、サイエンスの面白さを分かってもらうことであった。iPS細胞のようなまったく新しいアイデアが生まれるのには、どういう背景があったのか。どのような実験があればそれを証明できるのか。国際的な競争の中で勝ち抜き、生き残るための作戦。それは、一つの良質なドラマのようでもある。
 ポピュラーになったとはいうものの、iPS細胞を正確に理解しようとすると、現在の生命科学の最先端を理解しなければならない。逆を言えば、iPS細胞それ自身が、最先端の生命科学そのものなのである。まず、受精卵からどのように体ができてくるか、その筋書きのあらましを、まるで見てきたかのように、頭に入れておく必要がある。それは、遺伝子の設計図にしたがって、細胞自身が様々な細胞に分化し、一つの細胞社会を作りながら体を完成させていくプロセスである。そのプロセスの中で病気が発生し、最終的には生命体を終結させる。 病気を含めて、その過程を実験的に再現できるようにしたところに、iPS細胞のすごさと素晴らしさがある。


  第1章 からだのルーツ、幹細胞


   ◆一個の受精卵から始まる

 幹細胞。この本の主役である。英語でstem cell、ドイツ語ではStammzelleという。どちらも「幹細胞」を意味する。しかし、幹よりも起源を意味するフランス語(cellue souche)の方がその正体に近い。幹細胞の実態は、体を構成しているすべての細胞の「ルーツ」なのだ。iPS細胞を理解するためには、先ず体のルーツを知らねばならない。
 人々は、受精に至る物語に大いなる興味をもっているが、本当のドラマは受精から始まるのだ。生殖細胞系列の細胞は、男性では精子、女性では卵子という生殖だけを目的とした特殊な細胞に分化する。
 
    
◆受精卵から胚盤胞へ、そして体を作るまで
 卵巣を出て直ぐに受精した受精卵は、卵管を子宮に向かって移動しながら、分裂を重ねる。16~32個になり、細胞の粒々が外から見えるようになった時を「桑実胚」と呼ぶが、今の時代、むしろ、「ラズベリー期」呼んだ方がイメージしやすいであろう。桑実胚の頃、体を作る細胞と胎盤を作る細胞の二つに大きく分かれてくる。ヒトの場合、受精後5日くらいになると、細胞数が100個以上の「胚盤胞(blastocyst)」となり、8~9日には子宮に着床する。

 胚盤胞は、文字通り、胎児となるべき「胚」と胎「盤」となるべき細胞から構成される胎内の組織(「胞」)である。学名でblastocystというように、袋状の「のう胞(cyst)」を形成している。外側の細胞は胎盤となり、胎児の栄養を支える。その内側の一方に偏って細胞の塊がある。たとえて言えば、シュークリームのような細胞である。クリームの部分には「内部細胞塊(inner cell mass)」という何の変哲もない名前で呼ばれる細胞の塊がある。この細胞こそが、われわれが追い求めている幹細胞なのだ。

 胚盤胞の一部は、胎盤を作り、子宮内膜に着床する。胎児を育てるための支援装置ができたことになる。内部細胞塊の細胞から、まず、生殖細胞となるべき生殖細胞系と体を作る体細胞系が別れる。体細胞系は、さらに大きく内胚葉、中胚葉、外胚葉の三つに分かれる。内胚葉からは、食堂から大腸までの消化器などが作られる。中胚葉からは心臓、血管、筋肉、骨などが、外胚葉からは皮膚や脳神経などの組織が発生してくる。
 この分化の過程は、かなり詳細に明らかになっている。最初の分岐点、内胚葉、中胚葉、外胚葉に分かれるところでは、アクチビン(activin)という分子がその発生の方向をきめることを、浅島誠が1990年に発見した。しかも、その濃度勾配によって、どの胚葉に分化するかが決められるという。そこから先の分化の過程に関わる分子も分かってきている。そのような分子あるいは環境を様々に組み合わせることにより、幹細胞を目的の細胞にまで分化させることができるようになり、それによって創薬や再生医療が可能になったのである。


    
◆ES細胞とiPS細胞
 内部細胞塊の細胞が体つくりのスタートで、エバンスは内部細胞塊の細胞を培養して、内胚葉、中胚葉、外胚葉に分化することを証明した。内部細胞塊から分離した培養細胞を、胚に由来する幹細胞という意味で、胚性幹細胞(embryonic stem cell)、略してES細胞と呼ぶ。
 しかし、胚盤胞から分離するES細胞には、実験的にも倫理的にも大きな制約がある。受精のプロセスを経ないで、普通の細胞から直接幹細胞を分離できれは、こんなに素晴らしいことはない。そこに登場したのが、この本の主人公であるiPS細胞である。大人の皮膚から分離した線維芽細胞に、たった4種類の遺伝子を入れてやれば、ES細胞と同じような細胞ができてくるのである。われわれは、ついにES細胞とiPS細胞という2種類の幹細胞を自由に培養することができるようになった。この2種類の細胞は幹細胞として共通した性格を有する。



 <iPS細胞とはなにか> ㈱講談社ブルーバックス

 第2章 「リプログラム」への挑戦


「ドリー」の衝撃・・イギリス・エディンバラ大学、イアン・ウィルムット教授まず大人の羊の乳腺細胞から核を取り出し、核を除いた卵子に移植した。この卵子を「代理母」役の別の羊の子宮に入れ、1996年7月5日にドリーが誕生した。遺伝的には乳腺の細胞を取った羊とまったく同じ。クローンと呼ばれるゆえんだ。
 ドリーは「動物は受精卵から生まれる」というそれまでの概念を覆した。
  
「初期化」の謎
 ドリーは生まれた。しかし、どうして生まれたのか。体細胞の核になぜ受精卵のような万能性がよみがえったのか。細胞の中の分子レベルの仕組みは、わからなかった。体細胞の核にあった遺伝子が、受精卵の遺伝子のような状態に「初期化」(リプログラム)されたことは間違いない。ドリー誕生の発表後、アメリカ科学振興協会に招かれ、ワシントンで講演したとき、ウィルムット教授はこう締めくくった。「とても難しい仕事でした。しかし、将来、だれかが解明することでしょう」

 ドリー誕生から10年後の2006年、その謎が解かれた。京都大学の山中伸弥教授らが、体細胞にたった4つの遺伝子を入れるだけで、受精卵のような細胞に初期化できることを見つけた。iPS細胞だ。初期化に必要だったのは、世界の多くの研究者が考えていたような複雑な方法ではなかった。山中さんらが用いたあまりにシンプルな方法に、ウィルムット教授はとても驚いたという。
 ドリーは1998年4月、自然交配でメスの子ども「ポニー」を出産。クローンでも正常に子どもが産めることを証明した。

  ◆
すべてはカエルから始まった 
・・・イギリス・ケンブリッジ大学、ジョン・ガードン教授
 皮膚や神経など、ひとたび役割をもった細胞は、ふつうは万能性を失っている。その遺伝子を卵子に移植しても、受精卵のような状態には戻らないと長く考えられてきた。ドリーはその概念をほ乳類で初めて打ち破った。
 受精卵のような状態に戻すことを、「細胞の初期化」という。ガードン教授は1950年代後半から60年代にかけて、アフリカツメガエルのオタマジャクシの腸の細胞から核を取り出し、事前に核を除いた卵子に入れると、一部はカエルに成長することを確認した。クローンカエルの誕生だ。体細胞の核にもまだ万能性が残っており、そこから個体が生まれることを、ガードン教授は両生類で証明した。

 「どの細胞にも、個体が生まれるのに必要なすべての遺伝子があることを示したかったのです」。クローンカエルの誕生は、細胞が分裂、分化していっても、遺伝子は減らないことを示した。そして、あらゆる細胞になる万能性をもつのは受精卵だけで、役割が決まった体細胞はその万能性を失っているという当時の常識を覆した。
 それから40数年後、山中伸弥教授はiPS細胞をつくることで、難しい核移植をしなくても細胞を初期化させることに成功した。しかも、それまで「卵子の不思議な力」としか語られなかった初期化の仕組みを4つの遺伝子という「具体的な言葉」で説明してみせた。


 第3章 もっと知るiPS細胞 

   京都大学 iPS細胞研究所 CiRA サイラのホームページ

 iPS細胞は2006年に誕生した、新しい多能性幹細胞で、再生医療を実現するために重要な役割を果たすと期待されています。しかし、そもそも、iPS細胞とはどのように作られるのでしょうか?

<Q>山中教授のグループは最初にどのようにしてiPS細胞を作ったのですか?
<A> 数多くの遺伝子の中から、ES細胞で特徴的に働いている4つの遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)を見出し、レトロウイルス・ベクターを使って、これらの遺伝子をマウスの皮膚細胞(線維芽細胞)に導入し、数週間培養しました。すると、送り込まれた4つの遺伝子の働きにより、リプログラミングが起き、ES細胞に似た、様々な組織や臓器の細胞に分化することができる多能性幹細胞ができました。これが2006年に世界で初めてほうこくされたマウスiPS細胞の誕生です。
 その後、山中教授のグループでは、工夫を重ねて、同様に上記の4遺伝子を人間の皮膚細胞に導入してヒトiPS細胞の作製に成功したと2007年11月に発表しました。 
(*
レトロウイルス・ベクター:ウイルスを用いた遺伝子導入用DNAの一種。目的遺伝子をウイルスに組み込み細胞に感染させることにより、遺伝子を導入する。ベクターとは、遺伝子を細胞内に運ぶ役割をはたすものです。)

<Q>iPS細胞からどんな組織や臓器の細胞を作ることができるのですか?
<A>現在の国内外の研究成果を調べると、iPS細胞から神経、心筋、血液など様々な組織や臓器を構成する細胞に分化することが報告されています。ただし、細胞や組織というものは臓器という立体的なものの一部にすぎません。そのため、立体的な臓器をつくる試みもなされており、小さな肝臓などを作ったという報告もありますが、人間のサイズに見合う、あるいは人間の体内で機能するような大きく立体的な臓器ができたという報告はまだありません。
  〔2016年3月14日現在のCiRA ・HPより〕
以上