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コラム21> 

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資本論ワールド 人類学 ・ 考古学 ファイル 


           新しい史的唯物論の入門

    マルクス・フェティシズムFetischismus と コリン・レンフルー「物質的象徴」

 

    資本論ワールド 編集部 まえがき

 (1) 
 マルクスは、ヘーゲル哲学に依拠しながらも、現代の「認知科学cognitive science」に該当する課題に取組んでいました。
  『資本論』では商品の分析から始まり、貨幣-資本へと研究領域を拡大させてゆきます。その分析装置は、西洋の伝統的な有機体論を発展させた「形態学-生態系 ecosystem」理論であり、人類史の総括を目指した“社会的生産有機体”の経済社会構造の探究です。

 第1章は、価値形態 (Wertform ・形式)と「商品の物神的性格とその秘密」を分析しています。キリスト教神学による“イエス・キリストの受肉 Inkarnation ”と物神礼拝 Fetischismus の根底に存する「商品の変態 W-G-W 」 は、やがて商品価値が自己過程的な価値となり、自己過程的の貨幣となります。そしてお金を産むお金として、G-G´として自動的な実体である資本を形成してゆくことになります。

 しかしながらこれら一連の“価値の変態序列”は、16世紀において開始され世界商業と世界市場で形成された資本の仮面史の表層でしかありません。舞台装置が稼働する生きた労働によって、人類史を通して社会が構築され、更新されてきました。商品と貨幣は資本形成の前提ではありますが、一定の条件下ではじめて資本に発展してゆきます。『資本論』が探究する“商品形態”は、生産手段と生活手段の所有者が、自由な労働者を、労働力の売り手として市場に見出す場合においてだけ、“資本形態”に転化します。

 『資本論』は第1章商品から第2章交換過程を経て、第3章貨幣または商品流通まで、“商品変態W-G-W”の考察を行っています。資本に転化すべき貨幣の価値変化G-W-G´では、蛹から蝶へと形態変化/変態を遂げなければなりません。蛹の労働力商品を生ける労働として市場に見出すというこの歴史的条件が、商品生産社会に画期的な世界史を包括してゆくことになります。蝶は、産業革命を経て世界市場へ羽ばたき、こうして、資本の生態系が21世紀の私たちの命を育み続けているのです。


 
(2)
 今回の「人類学・考古学ファイル」は、19世紀に足場の構築が始まった西洋の諸科学のうち「社会性概念」に焦点を当てた論文を選びました。脳科学は20世紀の最先端科学でしたが、人工知能システムとの統合化が深化して人類史に新たな回転軸を提供しています。心の脳科学では、『資本論』の世界でも考古学と共同しながら、進化してきました。商品のフェティシズム批判を端緒に、西洋の伝統的思考の枠組みであった「世界認識の二元論」(-宇宙や世界の構成要素を精神と物質との2実体とする考え方-)が克服され、ヘーゲル哲学の“観念論”は変革され、“唯物論”の近代科学として思考の成素形態を構成するに至りました。

 アリストテレスからヘーゲルにいたる西洋思想の実体ー科学言語は、大きな転回点を迎え、古典派経済学の「労働の価値実体説(労働価値説)」は、マルクスによって変革されてゆきます。
 「労働生産物の価値形態は、ブルジョア的生産様式のもっとも抽象的な、だがまたもっとも一般的な形態であって、この生産様式は、これによって社会的生産の特別なる
として特徴づけられ、したがって同時に歴史的に特徴づけられているのである。したがって、もし人あって、これを社会的生産の永久的な自然形態と見誤るならば、必然的に価値形態の、したがってまた商品形態の、さらに発展して、貨幣形態、資本形態等の特殊性をも看過することになる。」(『資本論』第1章第4節商品の物神的性格とその秘密、岩波文庫p.146)

 マルクスによってはじめて、旧来の価値実体分析から抜け出し、価値関係を価値が必然的に現象する形式へと整え、成型し直すことに成功しました。この分析装置の中核には、ヘーゲルが支柱となって『資本論』の論理学を支えています。
 さらに西洋社会は、認知考古学を進展させ、20世紀を「生命と歴史科学の世紀」として構築するにいたりました。生物有機体から細胞代謝機能の生命科学にいたる200年間の進展を土台に、経済社会構造の分析思考に「心と脳科学」の現代的成果が活用される時代を迎えています。

  
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コラム21>は、人類学・考古学ファイルを系統的に紹介しています。

 
第1部 (1)リチャード・リーキー『ヒトはいつから人間になったのか』(脳の成長と社会性の起原について)、(2)スティーヴン・ミズン『心の先史時代』(人間の心は実体のつかみにくい、一つの抽象物である。するとなぜ考古学者が人間の心について問うのだろう。)、(3)エンゲルス『猿が人間化するにあたっての労働の役割』(労働が人間そのものを創造した)。


 第2部 コリン・レンフルー 「物質的象徴」
 コリン・レンフルーの認知考古学の3部作(心の先史学・要約、抄録、貨幣制度)を重点的に取扱います。コリン・レンフルーは、「社会性と社会関係」を心の進化過程から研究しました。マルクスの経済学批判である「商品の物神性・フェティシズム」を「歴史的に、論理的に」解明し、伝統的西洋思想の「二元論」をはじめて克服しました。


 
第3部 西洋の先人たちから多くの日本人が学びながら、さらに理論的に飛躍した事例を紹介します。(1)人類学と考古学の構築者たちー島泰三、竹岡俊樹、諏訪元の3名から最新の「心の進化と脳科学」の歩みです。(2)藤田哲也の『心を生んだ脳の38億年』は、「人類共通の文化の形成」にいたる脳科学が達成した20世紀総括の簡明な入門書です。(3)19世紀のエンゲルス論文に対して、20世紀の『知性の起原』「道具の使用が心を生み出す」の著者入來篤史による最新データです。(4)最後に、長谷川真理子『ヒトの進化と言語獲得の背景』です。「ミラー・ニューロン―他者と自己の概念形成の端緒」は、マルクスによる「商品の物神性」解読の理論的分析背景を理解するための不可欠の文献です。


 
第4部は、考古学が到達した人類史の現段階です。(1)島泰三『ヒト』異端のサルの1億年と (2) 『資本論』「価値形態論の考古学研究」の2つです。島泰三は、自然人類学者として地球の気候変動史と類人猿の進化過程の究明に科学的な基盤を提供しています。また、価値形態論の考古学研究-貨幣性商品の考古学-では、『資本論』の第2章交換過程における貨幣形式の発生を古代メソポタミア文明を通じて紹介します。


 

  ◆ 資本論ワールド 人類学 ・ 考古学 ファイル


  
   第1部



 (1).  リチャード・リーキー 『ヒトはいつから人間になった



 (2).  
スティーヴン・ミズン 『心の先史時代



 (3).  エンゲルス 『猿が人間化するにあたっての労働の役割 




   第2部



   
コリン・レンフルー 『先史時代と心の進化


          
1. 心の先史学 要約



          
2. 心の先史学 抄録



          
3. 貨幣制度・・・物質的関与と貨幣の読みとりかた



   
第3部


 
 (1)  人類学と考古学の構築者たち ー 島泰三、竹岡俊樹、諏訪元 



 (2) 
 藤田哲也 『心を生んだ脳の38億年



 (3) 入来篤史 『知性の起源』道具の使用が心を生み出す



 (4) 長谷川真理子 『ヒトの進化と言語獲得の背景




   第4部



 (1)
  島泰三 『ヒト異端のサルの一億年


 (2)  『資本論』 価値形態論の考古学研究


    *関連資料  『資本論』 商品の物神性 と 「心の進化・脳科学」