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         黒岩常祥  ミトコンドリアはどこからきたか NHKBools



   ミトコンドリア 生命40億年をさかのぼる


「ミトコンドリアに関するわれわれの知識は、過去40年間に膨大な量になった。

そのほとんどの研究が、どのようにミトコンドリア効率よくエネルギー源ATPを合成するか、

その仕組みの解明にあてられた。4 0年前、現在のような遺伝子を中心とする

分子生物学は未だ発展していなかった。・・・

 当時はミトコンドリアがかつては細菌だったなどと考える研究者はほとんどいなかった。

ただごくわずかな細胞学者が、細胞内でうごめく小さなミトコンドリアが亜鈴形アレイケイとなって

分裂しているように見え る様子から、ミトコンドリアは細菌が細胞内に入って形成されたのではないかと考えた。

しかし細菌がミ トコンドリアの起源なら、ミトコンドリアになぜDNAが観察されないのか。・・・

 1963年前半にナス夫妻らによって、電子顕微鏡を使ってミトコンドリア内にDNA繊維が発見され、

さらにミトコンドリアのリボソーム(タンパク質合成の場)が発見されると、やはりミトコンドリアは

細菌が共生して生じたという、いわゆる“細胞内共生説”が再び注目を集めた。・・・


 地球上には3000万種を超える生物が生息している。これらにさらに目に見えないような細菌を

加えると膨大な数になる。これらの生物を形づくる生命の基本単位は細胞である。

細胞には2種類がある。一 つは「原核細胞」といい、直径1-10ミクロン〔1000分の1mm〕と小さく、

DNAのある部分(核)とリ ボソームに満たされた細胞質部分からなり、これらの境界には核膜がない。

大腸菌や藍色細菌(シアノバ クテリア)が属する真正細菌や、メタン細菌が属する古細菌も、

原核細胞を基本単位としてできている。



 一方ヒトを含め肉眼で見えるほとんどの生物は「真核細胞」から形成されている。

遺伝子を含む領域は 核膜に包まれ、細胞質と明確に区分されている。細胞質は、

小胞体やマイクロボディ、リソソームのほかにミトコンドリアがある。植物細胞になると、

このほかに葉緑体を含んでいる。

 多様に見える生物も、遺伝子から系譜を調べてみると、驚いたことに、わずか3つのドメイン(領域)

と呼ばれるグループ(真正細菌、真核細菌そして古細菌ドメイン)にまとめられる。

これら3つのドメインに含まれる生物も、元を辿ればたった一つの原核細菌である。

生物は、40億年という長い歴史のなか で、分裂・増殖し、進化し、数千万種に多様化し、

自らの遺伝子を子孫に伝えつづけたのである。・・・

 20億年前に大きな事件が起きた。この真核生物の細胞を宿主として、

好気性のαプロテオ細菌が入り込み共生し、ミトコンドリアへと変換したのである。


これがミトコンドリアの誕生である。そして真核細胞に入り込んだ一個のミトコンドリアは、

真核細胞生物が、鞭毛虫類、繊毛虫類などの原生生物へ分岐するときに、

莫大な数に増加したのである(第4章)。




 こうした原生生物の一部は、藍色細菌を細胞内へ共生させ葉緑体にし、

光合成によって栄養を得る植物となった(第5章)。続いて、真核生物の進化の大幹線から、

吸収によって栄養をとる菌類(第6章)や、捕食によって生きる動物がうまれた(第7章)。

植物、菌類そして動物への分岐点でも、ミトコンドリアは巧みに細胞内で生きつづけ、

分裂・増殖し、今日、目に留まるほとんどの生物の細胞内に伝播し、生物の生存に必須の細胞内小器官となった




 第1章 分子から生命へ

 
ミトコンドリアは直径1ミクロンほどのフットボール状の楕円形であり、

独自のDNA,RNA、リボソームをもつ。その遺伝情報の流れは、

DNAに書かれた遺伝情報のmRNA(伝令RNA)による読み取りから、そのmRNAに基づくタンパク質の合成へと、

生物の基本原則といわれる、いわゆるセントラルドグマに従っている 。

さらにミトコンドリアは二重の幕に囲まれ、核分裂をしながら分裂・増殖する。

これだけ見れば立派な細菌(原核生物)である。

 このようなミトコンドリアのもつ遺伝性、生物性はどこからきたのであろうか。

この生物性の根源は、ミトコンドリアの祖先が細菌であり、他の細菌とその起源を

同じくするからであるとされている。そこで、ミトコンドリアの生物性を求めて、

生物の起源から探索してみよう。生命の誕生と進化という命題は、単に生物学の問題としてとらえたのでは解けない。



生命の誕生以来、生物は地球や惑星、恒星と共進化してきている可能性が強く、このため、

生物進化の研究には生命科学だけでなく、著しく発展してきた地球惑星科学の知識によるところがますます大きくなる。


 地球が誕生して間もなく、重い元素は地球の中心部へ行き、炭素、水素、酸素、窒素など軽い元素は

地球の表層部に集まって地殻を形成し、さらに大気や海洋を構成する炭酸ガス、硫化水素、シアン(青酸) 、

メタンなどの無機の化合物をつくりあげた。炭酸ガスに満たされた大気は、温室効果で摂氏1000度

以上もの高温となり、著しく嫌気性(酸素を嫌うという意味。ここでは酸素が非常に少ない状態)であっ た。

流れ込んだ硫化水素やシアンを大量に含んだ海水は生物にとっては猛毒であった。この過酷な環境の なかで、

アミノ酸やアルデヒドなどの有機モノマー分子〔同じ種類の小さい分子が互いに多数結合して巨 大な分子,

すなわち高分子となるとき,その小さい分子をモノマー(単量体)という。


生成した高分子はポリマー(重合体)と呼ばれる。「世界大百科事典」より〕が合成され、

生命への第一歩が踏み出された。このような一連の化学進化によって生命が誕生したと考えた、

偉大な科学者たちの話からはじめよう。




  
1. 生命は化学進化の結果生まれた

   
      オパーリンの先駆的考察


 ダーウィン以後しばらくの間、生命の起源に関して興味を示す科学者はいなかったが、

1924年にロシア〔旧ソ連邦〕の植物学者A・オパーリンは『生命の起源』という71ページ足らずの小冊子に、

これまでロシアの植物学会の支部大会などで発表してきた、生命は化学進化の結果誕生したという説をまとめた。

 オパーリン博士は原始地球を想定し、大気を構成していた単純なアンモニアやメタンに放射線が当たり 、

アミノ酸や糖など生命に必須な物質が合成されたと考えた。さらにこれらが原始スープの海にとけ込み 、

やがてコアセルベートといわれる液滴(油滴)に入り、

複雑な生命の基盤ができあがったという「化学進化」の考えを示した。



 太古の地球環境をまねたミラーの実験 ・・・・つづく・・・


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