■江戸時代の資本論 2022.03 →資本論翻訳問題2022.03
資本論用語事典2021
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「価値等式」の誤訳は『資本論』を破壊する
2016年2月
2月創刊号 資本論翻訳問題
■翻訳問題連載
02. 翻訳問題 2
03. 形式と形態2020.05.15
価値形態 Wertform と形式
04.等価Äquivalentと当量形式
『資本論』 翻訳キーワードについて (一覧表)
「科学の始まりは、分類から」と言われています。私たちが、何かを考えたり、あるいは読書や学問をするとき、言葉によって思考を整理しながら分類操作を行います。このとき、同じ「物・モノや事柄・コト」をそのたびに「違う言葉」で表現すれば、当然混乱を招きます。
なぜか『資本論』翻訳の業界では、以下のとおり「同じマルクスのドイツ語」が、出版社や翻訳者によってかくも違った日本語に変換されているのです。
しかも翻訳にあたり、ほとんどの訳者が「なぜその言語を選択したのか」なんら説明もなく、素通りしています。
試しに『資本論』の冒頭を見てみましょう。
「資本主義的生産様式の支配的である社会の富は、「巨大なる商品集積」として現われ、ここの商品はこの富の成素形態として現われる。したがって、われわれの研究は商品の分析をもって始まる。」(岩波書店・向坂訳)
これに対して、
・巨大なる商品集積 → 巨大な商品の集まり、 巨大な商品の集合体、 膨大な商品集成
・富の成素形態 → 富の基本形態、 富の要素形態、 富の原基形態
それぞれに、何らかの意味表示を行っているものと推測されますが、厳密な差異・ニュアンスがどのように違ってくるのか, までは、「読者まかせ」のようです。
言葉は文化・伝統をそれぞれ背負いながら現代社会に伝わってきています。「他人まかせ」で済まされる場合もありますが、問題は『資本論』の随所に、キーワードとなる言語について、翻訳語が違ってくる事です。
過去44年間に出版された『資本論』のキーワードについて、調査を行ってみました。 驚きを持つと同時に、果たして共通理解が得られているのか、大変気がかりです。
そこで翻訳語の主なキーワードの一覧表を作成してみました。
先の資本論交流会で、なぜ、一方通行の議論に終始してしまったのか、その理由の一端が分かったようです。交流会の報告者に見られる用語の表現は、各人手持ちの『資本論』から生じていたのです。こうして起こるべくして起こった事態であり、混迷であったと言えます。
以下、出版会社、翻訳者、出版年月日、主なキーワードの一覧です。
*出版年月日 :
翻訳者
岩波書店1967.10.5 : 向坂逸郎、 大月書店1972.3.10 : 岡崎次郎、
河出書房新社1969.8.30 : 長谷部文雄、 中央公論1973.2.28 : 鈴木鴻一郎ほか
新日本出版社1982.11.15: 資本論翻訳委員会、 筑摩書房2005.1.20:今村仁司ほか、
日経BP社 2011.12.5:中山元^
『資本論』第1章 第1節~第3節
キーワード 翻訳語 一覧
★下線個所をクリック(成素形態、方程式、化身、変態)
岩波書店・文庫頁 |
成素形態 p.67 | 背 理 p.70 | 方程式 p.71 | 妖怪のような p.73 | 膠状物 p.73 |
---|---|---|---|---|---|
ドイツ語 | Elenmentarform | Contradictio in adjecto |
Gleichung | gespenstisch | Gallerte |
英語版 | unit | Acontradiction in terms |
Equation | unsubstantial | Congelation |
大月書店 | 基本形態 | 形容矛盾 | 等 式 | まぼろしのような | 凝固物 |
河出書房新社 | 原基形態 | 形容矛盾 | 方程式 | 幻影のような | 凝結 |
中央公論社 | 基本形態 | 形容矛盾 | 等 式 | とらえどこのない | 凝結物 |
新日本出版社 | 要素形態 | 形容矛盾 | 等 式 | まぼろしのような | 凝固体 |
筑摩書房 | 要素形態 | 形容矛盾 | 等 式 | 幽霊じみた | 凝結物 |
日経BP社 | 要素形態 | 形容矛盾 | 等 式 | 幻想的な | 凝縮物 |
<注>:岩波書店向坂訳は、膠状物を他の箇所では「凝結物」とも訳している。
岩波書店・文庫 | 物神的性格p129 | 化 身p122 | 変 態 p.185 | 化 体 p.192 | 商品種 p.99 |
---|---|---|---|---|---|
ドイツ語 | Fetischcharakter |
Inkarnation | Metamorphose | Transsubstantiation | Warenart |
英語版 | Fetishism |
Incarnation | Metamorphose | Transubstantiation | ・artを省略している |
大月書店 | 呪物的性格 | 化 身 | 変 態 | 化 体 | 商品種類 |
河出書房新社 | 物神的性格 | 化 身 | 姿態変換 | 実体的転化 | 商品種類 |
中央公論社 | 物神性 | 化 身 | 変 態 | 化 体 | 商品種類 |
新日本出版社 | 物神的性格 | 化 身 | 変 態 | 化 体 | 商品種類 |
筑摩書房 | フェティシュ的性格 | 受 肉 | 転 身 | 実体変容 | 商品種類 |
日経BP社 | フェティシュな性格 | 受 肉 | 変 身 | 実体変化 | 商品種類 |
■一覧表をご覧になっての感想はいかがでしょう。
これから『資本論』を読もうと考えている皆さんは、どの出版社を選択しますか?翻訳者によって、『資本論』の読み方、理解が変わってしまう!?―という驚くべき事態に実は遭遇しています。どうしてこんなことになるのでしょうか?
他の人文・社会科学書等も同じようなのでしょうか。ひと昔前の出版界では、訳文に見解の相違がある場合、良心的に翻訳者「注」のなかで「訳語の注意事項」を記すことが多くありました。 しかし、上記「キーワード一覧」に見られるように、昨今の『資本論』業界では、どの出版社・翻訳者もキーワード語に注意事項を記してはいません。こうした「読者まかせ」のまま半世紀が経過しているのです。
現状のこうした翻訳文化・翻訳乱世に対して、異議申し立てを行ってゆくことも『資本論』ワールドの大きな仕事、大きな軸足のひとつです。毎月の「資本論HP月報」誌上で、「翻訳文化から一歩前へ」進んでゆきましょうと、皆さんと一緒に「日本語を私たちの手に」が目標です。
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<3つのキーワード>内容説明 ★クリックしてください
1. 成素形態 : Elementarform、 2. 変態 : Metamorphose、 3. 化身/受肉 : Inkarnation