資本論用語事典2021
「価値等式」の誤訳は『資本論』を破壊する
-『資本論』の方程式 -
<コラム 1> 『資本論』の方程式 (1)
比例と方程式の関係について
(2016.11.21) 改訂:2021.05.05
ー比例式から方程式を形成し、方程式の“解”を求めるー
・・・デカルトによる「同次元の法則」の脱却・・・・
価値方程式の形成過程
- 商品価値の「抽象量」を扱うためのステップ1 -
→ 『資本論』の方程式-集計
→ ヘーゲル比例論と価値方程式の道のり
目 次
Ⅰ 等式と方程式の違い
Ⅱ 比と比例式(比例関係と方程式)
Ⅲ 方程式を解くこと-比例式の“未知数”を解く
Ⅳ 未知数を「既知数」と同格に扱う
Ⅴ 比例式を図形・幾何学に応用したデカルト記号法
デカルトの記号法ー デカルトによる「同次元の法則」の脱却
Ⅵ デカルトの功績-数量関係の抽象と操作
Ⅶ 『資本論』の方程式
価値方程式の形成過程-比例と方程式
Ⅰ. 等式と方程式の違い
等式と方程式の違いは、「等式(等号=を含んだ式)において、“未知数”を含み、その“未知数”が特定の値をとるときだけに成立する式を方程式といいます。この特定の値を「解」または「根」と呼びます。
2つの等式① X+2Y=1、 ② 2X+5Y=10 があった場合、この2つの等式の性質を明らかにして、両者の数量関係を問う場合に、すなわち記号
X と Y を数量的存在として扱い、その値を求めてゆく場合、「等式」は「方程式」へと生成発展してゆきます。
等式の中の X と Y を未知数として扱い、方程式の解を求めてゆきます。
①の式を変形させて、X=1-2Yを ②に代入すると、2(1-2Y)+5Y=10、
→ 2-4Y+5Y=10 Y=10-2=8、 ① にYの値(8)を代入、
→ X+16=1 ∴ X=-15
等式①と②の間の関係が問題 ーすなわち、①と②の式に含まれるXとYを同等のものとして扱い、式①を式②に代入可能として扱うー 場合に、式①と式②の双方に”共通する”もの-すなわち、解を解く “未知数” として問題をとらえる場合に、式①と式②の各等式は、方程式の問題へと発展してゆきます。したがって各個の等式は未知数の解を求める領域の中では、方程式のモメントの意味をもつことになります。
<方程式について>
Ⅱ. 比(数の関係)と比例式(比と比の間の比例関係と方程式)
2つの比、A:B と C:D において、比例式 A:B = C:D が成立つ場合に「両辺の比の値が等しい」と言います。 比の値は分数で表示され、 A/B = C/D、 または両辺にBDを掛け合わせて、 AD = BC と変形することができます。従って、
A:B = C:D ならば AD = BC が成立することになります。
こうして比の関係が式の関係や分数の比例関係として比例式へと発展してゆきます。
Ⅲ. 方程式を解くこと-比例式の“未知数”を解く
2つの比にある“未知数X”が含まれている場合、比例式のよって“未知数X”を解くことができます。 2つの比が、X:3=15:2 の関係にあった場合、上記のAD=BCの比例式を応用して、以下の要領で “ 未知数 X ”を解いていきます。
X × 2 = 3×15 → 2X=45 ∴ X=22.5
このようにして、比例式を活用して “ 未知数X ” を解く方法が、方程式 「 2X = 45 」 を解くことと原理的に同一性を形成しています。
Ⅳ. 未知数を「既知数」と同格に扱う
「 Ⅲ. 比例式の未知数を解く 」の原理から、逆に“ 未知数X. ”を既知数と同格に扱うことで、与えられた問題の解法に活かすことができます。 すなわち、未知数X.を解くために、「方程式を立てる」ことです。
例題:ある数を2倍にすると、45になった。ある数はいくつか?
これを現在では、方程式で解いてゆくわけです。
① ある数をX.とする。 → ② 2X.は45だから、 2X=45 → ③45÷2=22.5
Ⅴ. 比例式を図形・幾何学に応用した「デカルトの記号法」
上垣渉著 『はじめて読む数学の歴史』 ベレ出版は、古代から近代の数学史をコンパクトに解説した書物ですが、比例論を課題としている個所では、大変理解しやすくまとめてありますので、ご紹介します。(要約)
(1) ヴィエタの記号代数
「1591年、ヴィエタ(1540-1603年. フランスの数学者、代数学の父と呼ばれる)は記号代数に関する『解析術入門』を著しました。第1章で、求めるべき量と所与量に関する定理に対して成り立つ方程式または比例から初めに提示された定理が真理であることを調べる方法であり、第2章では、「方程式と比例を支配するよく知られた規定を明白なこととして仮定する。」
これらは『原論』〔ユークリッド幾何学原論〕に見出される」として、16個の規定が列挙されています。 第3章では、ヴィエタは「同次元の量〔1次元x,y と2次元x2,y2の数量を通約不可能の数量と扱う〕」だけが互いに比較されるべきである」とする古代ギリシャ以来の「同次元の法則」が述べられています。
〔デカルトはこの「同次元」の制約を取り外した〕
(2) デカルトによる「同次元の法則」の脱却
ヴィエタの記号代数をさらに発展させたのがデカルトでした。
デカルト(1596-1650年)以前には、古代ギリシャの伝統にしたがって、 a² は a を一辺とする正方形の面積を、b³ は一辺が b の立方体の体積を表わすものとされていました。
そして、線分は線分同士、面積は面積同士の間でのみ加減することが可能とされていたのです。というのも、次元の異なる量、たとえば線分と面積の間の和差などは実在的に無意味だったからです。これは「同次元の法則」と呼ばれています。ヴィエタにおいても、この同次元の法則に縛られていましたが、デカルトに至って、ようやく「同次元の法則」からの脱却がはかられたのです。」
(3) 比例関係(比例式)と幾何学的作図
ー比例式から方程式を形成し、方程式の“解”を求めるー
デカルトは、相似の比例関係を元にして、幾何学的作図法により直線で数量表示できる方法を開発します。「ところで注意すべきは、a² あるいは b³ などによる表現は平方とか立方とかの代数学で用いられている用語でよばれるが、私にとっては、単純な直線を意味するにすぎない」(『幾何学』第1巻)。
比例計算を用いた簡単な幾何学的作図を紹介します。
① 掛け算(積・面積)を直線で表示 [図1]、
②割り算(分数)を直線で表示 [図2]、
③分子・分母ともに整数である分数として表すことのできない無理数(例として平方根√)を直線で表示 [図3]、
『はじめて読む数学の歴史』 より
・・・上垣 渉 著 ベレ出版 2006年発行・・・
「デカルトの『幾何学』第1巻は、「幾何学のあらゆる作図題は、いくつかの線分の長ささえ知れば作図しうるような諸項へと、容易に分解することができる」という文書で始まり、代数における加減乗除と開平〔ある数の平方根を求めること、 2乗して
a となる数を a の平方根または2乗根という〕が幾何学における作図に結びつけられています。
〔下記の写真図参照〕
①
【図1】のように、線分a(AB)、b(AC)を適当な角度をなすように描きます。 そして、線分a上に単位線分ADをとります。 点C、Dを結び、点Bから線分CDに平行にBEを描きます。すると、線分AEが積abを表わすことになるのです。 なぜなら、△ADC ∽ △ABE 〔∽:相似〕 ですから、1:a = b:AE となり、 AE = ab 〔1×AE = a × b〕 となるからです。
②
また、商b/a については、【図2】のように、点B、Cを結び、点Dから線分BCに平行に DEを描きます。すると、線分AEが商b/aを表わすことになるのです。 なぜなら、△ADE∽△ABCですから、1:a =AE: b となり、 AE= b/a 〔1×b=a ×AE, 両辺をa で割る〕 となるからです。
③
また、平方根 √a については、【図3】のように、線分a (AB)と単位線分(BC)を一直線にして描きます。次に、ACの中点Oを中心とし、半径OAの半円を描きます。そして、点Bから垂線BDを立てますと、線分BDが平方根
√a を表わすのです。 なぜなら、△ABD∽△DBCですから、a:BD = BD:1 となり、BD² = a となるからです。
Ⅵ. 数量関係の抽象と操作
デカルトの画期的な功績は、既知量を a、b、c など抽象的な変数(数量)や「未知数量」を対象化して、操作可能な数量関係を開発したことです。 デカルトは、『規則論』規則第16において次のように述べています。
「困難の解決にあたっては、ひとまとまりのことと見なす事柄はすべて、ただ一つの記号によって表示することにする。 この記号は任意に作ってよい。けれども、分かり易いように、文字a、b、c などを既知量を表わすのに用い、A、B、Cなどを未知量を表わすのに用いよう。
〔後に、未知量表示はx、y、zに変更〕
そして、それらの量の数を示すために1、2、3 などの数字を文字の前に付け、またそれらの量が含むと考えるべき関係の数を示すためには、数字を文字の後へ付けよう。そこで、たとえば
2a³ と書けば、これは a なる文字によって示され、かつ3つの関係を含むところの量の2倍、ということになる。」
マルクス著 『経済学批判』 第1章 商品
1. (第12段落) 交換価値においては、個々の個人の労働時間が、直接に一般的労働時間として現われる。そして個別的な労働のこの一般的性格(allgemeine
Charakter)が、その労働の社会的性格(gesellschaftlicher Charakter)として現われる。交換価値に表われる労働時間は、個々の人の労働時間である。個々の個人の労働時間ではあるが、他の個々の個人から、区別(Unterschied)されない個々人の、すなわち同一労働を支出する限りでのあらゆる個々の個人の労働時間である。」 (新潮社版p.61)
■ 以下、こちらにつづく・・・
以上