資本論用語事典2021
『資本論』の生態系es
『資本論』の生態系について
資本論ワールド 編集部
1. 『資本論』第1版序文 社会の自然法則と生態系
2. ダーウィンの生態学
3. 生態系の構造と機能
4. 花里孝幸著『生態系は誰のため?』
5. 形態学, 生態学, 生態系について
6. 『資本論』の生態系について
7. ・社会生物学について.
第1版の序文 2021.04.20
社会の自然法則 ー 『資本論』の生態系
A 社会の自然史過程 序論
1. 第1版の序文
1-1.
完成した態様(すがた)を貨幣形態に見せている価値形態は、きわめて内容にとぼしく、単純である。ところが、人間精神は2000年以上も昔からこれを解明しようと試みて失敗しているのに、他方では、これよりはるかに内容豊かな、そして複雑な諸形態の分析では、少なくとも近似的には成功しているというわけである。なぜだろうか?でき上った生体を研究するのは、生体細胞を研究するよりやさしいからである。そのうえに、経済的諸形態の分析では、顕微鏡も化学的試薬も用いるわけにはいかぬ。抽象力なるものがこの両者に代らなければならぬ。しかしながら、ブルジョア社会にとっては、労働生産物の商品形態または商品の価値形態は、経済の細胞形態である。(岩波文庫p.12)
1-2.
物理学者は自然過程をこういう風に観察する。すなわち、自然過程がもっとも的確な形態で、撹乱的影響によって混濁されることもっとも少なく、現れるばあいをとるか、あるいは可能なばあいには、実験を、過程の純粋な進行が確保される条件のもとで、行いのである。私がこの著作で探求しなければならぬものは、資本主義的生産様式であり、これに相応する生産諸関係および交易諸関係である。 (岩波文庫p.13)
1-3.
それ自体としては、問題は、資本主義的生産の自然法則から生ずる社会的敵対関係の発展程度の高いか低いかということにあるのではない。問題として取り扱うのは、これらの法則自体であり、鉄の必然性をもって作用し、そして貫徹するこれらの傾向なのである。産業的により発展している国は、発展程度のより低い国にたいして、その国自身の未来の像を示すだけのことである。(岩波文庫p.14)
1-4 一国民は他の国民から学ぶべきものであるし、また学びうるものである、一社会がその運動の自然法則を究知しえたとしても―そして近代社会の経済的運動法則を闡明することがこの著作の最後の究極目的である―、この社会は、自然の発達段階を飛び越えることもできなければ、これを法令で取り除くこともできない。しかしながら、社会はその生みの苦しみを短くし、緩和することはできる。(岩波文庫p.16)
1-5.
私は、資本家や土地所有者の姿を決してバラ色の光で描いていない。しかしながら、ここでは、個人は、経済的範疇の人格化であり、一定の階級関係と階級利害の担い手であるかぎりにおいてのみ、問題となるのである。私の立場は、経済的な社会構造の発展を自然史的過程として理解しようとするものであって、決して個人を社会的諸関係に責任あるものとしようとするものではない。(岩波文庫p.16)
1-6.
それは、支配階級のうちにおいてすら、現在の社会が堅い結晶体でなく、変化しうるもので、不断の変転の過程をたどっている有機体であるということが、ほのかに感じられはじめているのを示すものである。(岩波文庫p.17)
以上
生態系システムの構造と機能-構成要素2021.01.24
→→HP生態系とは何か2021.01.23 >9.生態系の構造と機能
→生態系は誰のため2021.01.24
1. 生態系の構造と機能
2. 生態系システムの構成要素
『生態学入門』日本生態学会編 第2版 東京化学同人2012年発行
目次 府中図書館
9.生態系の構造と機能
9 生態系の構造と機能
生態系は、ある地域や空間に生息しているすべての生物(生物群集)とそれら生物の生活に関与する無機的環境の要素から成るシステムである。生物はこれらの無機的環境から影響を受けるだけでなく、逆に生物も無機的環境に影響を与えている。もちろん、生物は相互にさまざまな方法でかかわり合っている。このような構成要素間の関係や構成要素の空間的な配置を生態系の構造とよぶ。この構造の機能は、種および個体の共存、エネルギーの利用効率、物質のリサイクル効率、システムの安定性、環境変動に対する緩衝作用、システムへの撹乱に対する修復作用などから評価される。
〔生態系を物質生産と栄養塩の循環、エネルギー流でみるとどのような法則であるかを研究するのが、生態系生態学である。〕
f. おもな元素の循環 ( 炭素 / 窒素 / リン )
生態系を流れるおもな元素のうち、生物の体を構成する化合物の骨格をなす炭素の循環は開放的である。大気中のCO2は生産者に吸収され、有機物中の炭素として、生産者や消費者、分解者の体にとどまるものの、最終的には呼吸によって、ほとんどすべてが再びCO2として放出されてしまう。したがって、炭素は一つの生態系の中にとどまることはなく、地球全体で循環しているのである。
2 生物界の共通性と多様性
生物は多種多様であり、鳥とミミズ、オサムシとキノコ、といったように、互いにまったく似ても似つかない姿かたちをもつ。しかし組織レベル、細胞レベルで比較してみると、姿の違いとは裏腹に、これらはすべて共通の遺伝的、生理的、構造的な性質を備えている。このような共通性の存在は、生物の多様性が共通の祖先から生み出されたものであることを示している。また、これらは膨大な時間をかけて進行した生物進化と地球環境の歴史の産物でもある。
2・1 生物界の共通性
生物界にはさまざまな共通性がみられるが、この共通性は共通祖先の性質に由来する。生物の条件は、自己境界性、自己維持性、自己複製性をもつことであり、全生物に共通である(*注)。つまり、共通祖先に由来する子孫種には、多様な環境に適応した形質が多様に進化する一方で、過去に完成された重要な形質には強い純化淘汰(安定化選択;第3章を参照)が作用して、後代まで変化せずに共通して伝わるからである。
(*注) ウイルスは三つの条件のうち自己維持性をもたないので、生物に含めるかの論争がある。
a. 生物は細胞から構成
すべての生物は細胞から構成されている。現生の地球上の生物はすべて、約38億年前後に誕生した生命の性質を受継いでいる子孫であるため、これが共通性の由来となっている。生命が誕生してから長らく原核生物であったが、約20億年前後には細胞内共生によってミトコンドリアと葉緑体を取込んだ単細胞の真核細胞が登場した。さらに、約10億年前には組織分化をもつ多細胞生物が登場した。しかし単細胞であれ、多細胞であれ、細胞はすべて共通の細胞膜で囲まれ、外界と内側とを隔てている(自己境界性)。細胞膜の外側には、植物細胞ならばセルロースやリグニンから成る細胞壁をもち、動物細胞ならばさまざまな細胞外被(細胞間マトリックス)をもつ。また、細胞内部は基本的な共通の構成要素(細胞小器官)から成り立っている。
e. 生体物質にみられる共通性
原始生命体である共通祖先がたまたま偶然にもっていた性質が、そのまま、現生種に引き継がれて蔓延している形質もある。これらは、初期に登場したときは有利なわけではなかったと思われるが、いったん偶然に頻度が高くなると、それ以外の変異体はそのタイプと同じ資源をめぐる競争的排除(第7章を参照)や、多勢に無勢で負けてしまう正の頻度依存的自然選択(第3章を参照)によって、現生生物のように一つのタイプに固定されるようになったと思われる。その共通性の例をいくつかあげる。
1)生体のタンパク質はすべてL型アミノ酸から成る。鏡像異性体のD型はタンパク質には取込まれず、遊離アミノ酸にわずかにみられるだけである。
2)DNAの塩基はA・G・T・Cの4文字だけで、I(イノシン)などの塩基は遺伝物質には使われていない。
3)生物の遺伝物質であるDNAはすべて右巻き(5’→3’の方向で見て)である。
4)リボソームでタンパク質を合成する際に、メッセンジャーRNAから翻訳するときのコドン(暗号)はすべてトリプレット(三つ組)である。
5)コドン表(第3章の表3・2を参照)の開始コドンは、真核生物はすべてAUGで、対応アミノ酸はメチオニンになっている(原核生物だとホルミルメチオニン)。
6)終止コドンも、UAA、UAG、UGAで共通である。
・・・以下、省略・・・
花里孝幸著『生態系は誰のため?』
筑摩書房 2011年発行
序章 生態系ということばの誤解を解く
「生態系」は、英語ではエコシステム(ecosystem)といいます。すなわち、ひとつのシステム(系)です。システムとは、多くの要素がお互いに関わりを持って秩序を保っているものなのです。
さて、それでは生態系というシステムについて具体的に説明しましょう。 このシステムの構成要素は、生物たちです。しかし、それだけではありません。大気や水、土壌や岩石など、生物でないものも重要な構成要素なのです。なぜなら、例えば大気(空気)や水がないと、私たち人間を始め、ほとんど全ての生物は生きていけないからです。そうすると、生態系の中では、生物と、大気や水なども含めた要素の相互関係があることになります。その相互関係について考えてみましょう。
まず、頭に浮かぶ相互関係は、物質とエネルギーの受け渡しですね。動物は餌を食べなければ生きていけません。餌を食べる事で、餌生物の体をつくっていたさまざまな物質(炭素、窒素、リン、カルシウムなどなど)と共にエネルギーを摂取し、それを利用して自らの体をつくり、活動を行っています。そして、その生物は、次に別の動物に食べられ、自らの命と共に、物質とエネルギーを奪われることになります。この食う-食われる関係を通して物質やエネルギーが生物の間で運ばれていきます。そのつながりを食物連鎖と呼びます。では、その物質やエネルギーは元々どこから来たのでしょうか。
食物連鎖は、通常植物から始まります。樹木や草は、自らの体(有機物)をつくるために、炭素を大気から二酸化炭素(CO2)の形で取り込みます。また、その他の必要な物質の多くは、土壌中の水に溶けている状態のものを根から吸収します。そして、太陽から届く光エネルギーを利用した光合成によって、それらの物質を材料に、植物体(有機物)をつくります。有機物は炭素を骨格とした化合物です。したがって、体をつくっている物質を、重量で比較すると、炭素が最も多いのです。植物だけでなく動物も、乾燥させて体から水分を取り除くと、その重量のおよそ半分が炭素の重さなのです。
植物は、太陽エネルギーを使って有機物という化合物をつくりました。そのことは、有機物には、その化合物という形態を維持するのに必要なエネルギー(化学エネルギー)が含まれていることになります。つまり、このことは、植物が太陽の光エネルギーを化学エネルギーに変え、有機物に蓄えたと考えることができます。そして、植物が持つ物質と化学エネルギーが、食物連鎖を通してさまざまな動物に運ばれていくのです。
生き物の体をつくつている物質 ・・・物質は循環する・・・
ここで、植物や動物の体をつくっている物質の動きを考えてみましょう。 まず、炭素を例に挙げます。先ほど述べたように、植物は大気中にある二酸化炭素を摂取し、光合成によってそれを生物体に組み込みます。そして酸素を放出しています。ところが、植物は、それと同時に光合成によってつくった有機物の一部を自ら分解し、そこからエネルギーを得て、自らの生命活動に使います。つまり、呼吸をしているのです。したがって、光合成によって植物体に取り込まれた炭素の一部は、植物の呼吸によって再び二酸化炭素に変えられて大気中に排出されます。
太陽エネルギー
もう一つ、生態系を考えるときに重要なことがあります。
今、生態系の中では、物質が非生物的媒体と生物の間を循環していると述べましたが、ただ物質が存在するだけでは循環はしません。物質を動かすにはエネルギーが必要です。そのエネルギーはどこから供給されているのでしょうか。これについてはすでにお話しましたね。そう、太陽です。太陽からの光エネルギーを植物が光合成によって化学エネルギーに変え、そのエネルギーが食物連鎖を通してさまざまな生物に運ばれているのです。つまり、生物の間では物質と共にエネルギーが移動しています。
・・・生態系とは、決して生き物たちだけによってつくられているものではありません。生き物のほかに、大気、水、土壌、岩石などの非生物的な要素から成り、その中で循環する物質と流れるエネルギーによってシステムが維持されているものなのです。
この生態系というシステムは、人間の社会につくられる社会システムと対比することもできるでしょう。人間社会では、貨幣や物資が「循環」し、それを動かす原動力になるのが情報であって、情報は「流れている」のです。
・・・以上、序章終わり・・・