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ユークリッドと非ユークリッド幾何学   2020.10.19

   幾何学  (英語表記)geometry

  ■ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説
人間が知覚できる空間内の物体や諸現象の観察を通してそこから得られた図形の性質を研究する必要性から起った学問。古典的な平面幾何学や立体幾何学ばかりでなく,現在では,最も抽象的な思考や想像の産物までが幾何学的に表現されるようになっている。現在ピタゴラスの定理として知られる問題と同様のことを,すでに前 3000年頃のエジプトやバビロニアの人たちが知っていたことは,発見された粘土板にも見出され,当時から,すでにある種の幾何学的知識のあったことが認められる。前 490年頃死んだピタゴラスは,ギリシアの数学者,特にユークリッドに大きな影響を与え,前 300年頃ユークリッドは,幾何学の『原本』を著わし,それ以前の幾何学的知識を集大成した。知識を演繹的に体系化したギリシアの数学は,バビロニアやエジプトのものよりすぐれており,ユークリッドの『原本』は,2000年以上にもわたって,幾何学の聖典として尊ばれた。しかし,ユークリッドの平行線の公理や,その不自然な人為的方法に対する反省から,非ユークリッド幾何学が興ったが,一方では,R.デカルトによる幾何学の代数化すなわち解析幾何学,無限遠点の概念の発見による射影幾何学なども興り,18~19世紀における幾何学の開花時代を迎えた。また,18世紀に現れた微分幾何学によって曲面論が体系化され,19世紀中期には,n 次元のリーマン幾何学へと発展し,やがて E.カルタンらにより接続幾何学として完成された。その発展過程には,A.アインシュタインの相対性理論との関連も見逃すことはできない。他方 19世紀後半には,H.グラスマンによる多次元空間の概念,G.ベラビチスや W.ハミルトンによるベクトル代数の導入などもあり,これらが現代幾何学として大きく前進した。幾何学の基礎に関する徹底的な研究が,19世紀の終りに,D.ヒルベルトによって行われ,これによって幾何学が感覚の世界から分離したものとして構成されるにいたった。ヒルベルトの公理的方法は,単に幾何学の基礎論であるにとどまらず,数学全体の抽象化の直接の動機となった。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典



  ■ 百科事典マイペディアの解説
図形や空間の性質を研究する数学の部門。エジプト,バビロニア,ギリシアを通じて発展した初等幾何学はユークリッド幾何学に体系化されたが,近代以後非ユークリッド幾何学,解析幾何学,射影幾何学,微分幾何学,リーマン幾何学,位相幾何学など多くの分野が生まれている。また平面(2次元空間)図形を扱う幾何学を平面幾何学,3次元空間の図形(空間図形,立体図形)を扱うものを立体幾何学というが,より進んだ幾何学では一般的なn次元または無限次元空間を対象とする。→幾何学原本 →関連項目算数|数学|マンデルブロー  出典 株式会社平凡社



  世界大百科事典 第2版の解説
一般に,幾何学とは図形に関する数学であると説明されているが,幾何学の対象,内容,方法は時代とともに著しく変遷し,その範囲も非常に拡大され,現在ではこれらをすべて含むように幾何学を定義することはできない。しかしながら,幾何学と名のつく数学では,図形の直観,またはその類似に依存して研究される度合が強い。なお,geometryはギリシア語の〈土地を測る〉を意味するgeōmetriaに由来し,幾何は中国語で量的な問いを意味する疑問詞で,中国からの伝来語である。
出典 株式会社平凡社



  大辞林 第三版の解説
図形およびそれの占める空間の性質について研究する数学の一部門。古代オリエントに起こり、初等幾何学はギリシャのユークリッドによって集大成された。現在ではこれをさらに発展させ、解析幾何学・微分幾何学・射影幾何学・位相幾何学など多様な内容・方法をもつに至っている。幾何。 → 非ユークリッド幾何学 出典 三省堂大辞林



 ■ 
非ユークリッド幾何学 (英語表記)non-Euclidean geometry

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説
ユークリッドは,その幾何学を展開するにあたって,点Pと,それを通らない直線 l とが与えられた場合に,点Pと直線 l の定める平面上で,「Pを通って l と交わらない直線は1本,そしてただ1本だけ引ける」と仮定した。しかし N.ロバチェフスキーと J.ボーヤイとは,この公理の代りに「Pを通って l と交わらない直線は無数に引ける」と仮定しても,まったく矛盾のない幾何学を展開しうることを示した。これをロバチェフスキー=ボーヤイの非ユークリッド幾何学という。また G.リーマンは,ユークリッドの公理の代りに「Pを通って l と交わらない直線は1本も引けない」と仮定しても,まったく矛盾のない幾何学を展開しうることを示した。これをリーマンの非ユークリッド幾何学という。



  ■百科事典マイペディアの解説
ユークリッド幾何学の諸公理・公準のうち平行線公理だけを他の公理でおきかえて得られる幾何学。一直線外の一点を通りそれに平行な直線が無数に存在するとするボーヤイとロバチェフスキーの双曲的非ユークリッド幾何学と,平行な直線が1本も存在しないとするリーマンの楕円的非ユークリッド幾何学がある。前者では三角形の内角の和は2直角より小さく,後者では2直角より大きい。
→関連項目幾何学|球面幾何学|空間(哲学)|空間(数学)|公理|射影幾何学|数学|平行|ボーヤイ|ロバチェフスキー 出典 株式会社平凡社



  ■世界大百科事典 第2版の解説
〈平面上で,直線外の1点を通って,この直線と交わらない直線はただ一つ存在する〉という,いわゆる平行線公理が成り立つ幾何学をユークリッド幾何学と呼ぶ。これに対し,平行線公理が成り立たないような幾何学を非ユークリッド幾何学という。ユークリッド幾何学は前300年ころに書かれたユークリッドの《ストイケイア》によって確立されたが,非ユークリッド幾何学の誕生は19世紀においてであり,その間には長い苦渋の歴史があった。 出典 株式会社平凡社世界大百科事典


  ■大辞林 第三版の解説
 ユークリッド幾何学における平行線の公理「直線 a 上にない一点 p を通って a に平行な直線はただ一本しか引けない」を否定し、「 a に平行な直線を無数に引くことができる」または「 a に平行な直線は存在しない」という公理に置き換えて成立する幾何学。ロバチェフスキー・ボーヤイ・リーマンらにより研究された。
出典 三省堂大辞林 第三版