事柄 Sache と 事物 Ding_2020.04.05
『ヘーゲル用語事典』 未来社
→ ヘーゲル『小論理学』
「物 Ding 」の相関関係
■ 物・Ding について
「 知覚 <知覚(Wahrnehmung)>とは、この関係性(媒介性)を対象のうちにみている意識であり、その対象はたんなる「このもの」ではなく、ひとつのものでありながら白いとともに辛く、また立方体であり、これこれの重さをもつ、という多様性をもつ「この塩」のように、「多くの性質をそなえた<物(Ding)>」である。こうした形式をもつこの物 Ding は、これを他の多くの物と区別する諸性質の集合として数多性であり、しかもひとつのものである。しかし、この矛盾を含む対象を、意識は矛盾を含まないものとして受け取ろうとする。・・・」
■ 事柄 Sache について
事柄と事物
論理学では、「事柄(事 Sache)」は《事物(物 Ding)》から区別される。 『大論理学』 では、事柄Sacheは本質論の最初の「根拠」の段階で扱われ、事物 Dingはつぎの「現象」(現存在)の段階で扱われる。
さて、なにか或るものは直接的に捉えられるのではなく、根拠をもったものと捉えられる(→内谷-形式)。なにかをそのものたらしめるような根拠があますところなく現われ出たものが「事柄(事柄そのもの)」である。日常語でも、「事柄が問題である」といわれるが、事柄は、なにかの確固とした実質内容を意味する。事柄は、一定の条件のもとで根拠から出現する。より根本的にいえば、事柄は、根拠や条件を自分の構造にとり込んだ全体的なものである。事柄はのちの段階では、「概念」が現われ出たものと捉え直される。事柄の具体的な姿が「現存在( Existenz )」であり、現存在する個々のものが「事物 Ding」である。
事物 Dingはさまざまな「性質(Eigenschaften)」をもつ。事物の性質は事物に固有の(eigentlich)ものといわれるが、それはじつは他の事物との接触や相互作用によって生じる。たとえば、色は事物と光との相互作用から生じる。事物が他の事物から区別され、自立的であるのは、さまざまな性質を独自の仕方で結合することによってである。有論で、或るものと他のものとの関係、対自存在と対他存在との関係、或るものとその質の関係といわれたものが(→定有)、ここではより深く捉えられる。だが、本質論の段階では、事物はまだ他の事物との相関関係にあるものとみられ、概念論におけるように真に自立的なものとはみられない。
『小論理学』では、事柄と事物とのカテゴリー的順序は逆転されるが、内容の理解の点で『大論理学』とのあいだに大差はない。『小論理学』では、事物Dingは本質論の第一段階の「根拠」で扱われ、事柄Sacheはその第三段階の「現実性 Wirklichkeit」で扱われる。事物は、根拠が現われ出て現存するものと捉えられる。
これにたいして、事柄は可能性と現実性との関係の考察のさいに扱われる。事柄は、一定の条件のもとで可能的なものが現実的なものへ転化することによって生じる。事柄は条件を活動の素材として利用し、自分の内容へとり入れると同時に、活動の成果を新たな活動の条件に転化させる。だが、本質論の段階では事柄、活動、条件の結合はまだ外的・表面的にすぎず、これらが内的に結合されるのは「概念
Begriff 」の段階においてである。」